マルチクラウドを活用したコスト最適化とセキュリティ強化のポイント

課題解決のためのノウハウ
クラウドサービスの普及に伴い、セキュリティ対策の重要性が一層高まっています。「クラウドはオンプレミスより安全性が低い」という誤解を持つ方も少なくありませんが、実際には適切な対策を講じることで、高いセキュリティレベルを確保できます。本記事では、クラウド環境で注意すべき8つのセキュリティリスクとその対策、オンプレミスとの違いを解説します。クラウドセキュリティに関する正しい知識を身につけ、自社のビジネスに最適な環境を選択するための判断材料としてお役立てください。
クラウドサービスの選び方については、こちらでも詳しくご紹介しています。
オンプレミスからクラウドへの移行については、こちらの資料でも解説しています。
クラウドの基本については、以下のダウンロード資料で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
クラウドセキュリティの定義から責任範囲まで理解することで、適切な対策の基盤を築くことができます。この章では、基本的な概念から国際的な認証基準まで解説します。
クラウドセキュリティとは、クラウド環境におけるデータやシステムを様々な脅威から保護するための対策の総称です。オンプレミス環境とは異なり、物理インフラの管理がクラウド事業者側にあるため、ユーザー側とクラウド事業者側の責任分担を明確にし、それぞれが適切なセキュリティ対策を実施することが求められます。
クラウドセキュリティは、データの機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability)を確保するための「CIA」の原則に基づいています。これには、アクセス制御、認証・認可、暗号化、脅威検知、セキュリティ監査など、複数の保護レイヤーが含まれます。クラウド環境特有のリスクとして、データの所在地の不透明さ、マルチテナント環境でのデータ分離、API経由の攻撃なども考慮する必要があります。
クラウドセキュリティの必要性については、「サイバーセキュリティとは?サイバー攻撃を受けた際のリスクや対策を解説」で詳しく解説しています。
デジタル化の進展とリモートワークの普及に伴い、クラウドセキュリティの重要性は飛躍的に高まっています。特に新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが急速に普及し、社外からのアクセスが増加したことで、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクが増大しました。
従来のセキュリティモデルでは対応が難しいクラウド特有の脅威が増加しており、より包括的かつ動的なセキュリティアプローチが求められています。例えば、クラウドでは物理的なセキュリティ境界が曖昧になるため、アイデンティティとアクセス管理がより重要になります。また、クラウドリソースの自動的なスケーリングによって、セキュリティの可視性と制御の課題も生じています。
クラウドサービスを安全に活用するためには、情報漏洩、不正アクセス、サービス停止などの様々なセキュリティリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。企業のデジタル資産を守り、事業継続性を確保するため、クラウドセキュリティは経営課題としても認識されるようになっています。
不正アクセスについてさらに詳しく知りたい方は、「不正アクセスとは?実際の被害事例を用いて対策を詳しく解説」をご参照ください。
クラウドサービスにはSaaS、PaaS、IaaSをはじめとするサービスがあり、それぞれで利用者とクラウド事業者のセキュリティ責任範囲が異なります。これら以外にも様々な種類のサービスが存在し、クラウドサービスの多様化が進んでいます。
アプリケーションの提供が主体で、利用者側の責任範囲は最小限です。主にデータの管理と利用者のアクセス制御が利用者側の責任となります。Salesforce、Google Workspace、Microsoft 365などが代表例です。
アプリケーション実行環境が提供され、利用者はアプリケーションとデータの管理を担当します。プラットフォームのセキュリティはクラウド事業者の責任となります。Google App Engine、Microsoft Azure App Serviceなどが該当します。
仮想マシンやストレージなどのインフラを提供するサービスで、OSより上のレイヤーは利用者側の責任範囲となります。 Amazon Web Services (AWS) EC2、Google Compute Engine、Microsoft Azure Virtual Machineなどが挙げられます。
自社のクラウド環境を構築・運用する際には、どのサービスタイプを選択するかによって、セキュリティ対策の範囲や方法が大きく変わってきます。自社の責任範囲を正確に理解し、適切な対策を講じることで、より安全なクラウド環境の実現につながるでしょう。
クラウドサービスの種類と特徴については、「IaaSとは?クラウド導入に欠かせないIaaSの概要、PaaSやSaaSとの違いを解説」でより詳細に解説しています。
クラウド環境では従来のオンプレミス環境とは異なるセキュリティリスクが存在します。以下では、特に注意すべき8つの主要なリスク領域と、その効果的な対策について解説します。
クラウド環境のインフラセキュリティでは、データが外部ネットワークを経由することによる情報漏えいや、API経由の不正アクセスなど、オンプレミスとは異なるリスク特性があります。公開されたインターフェースを通じた攻撃が増加しており、適切な保護対策が必要です。
特に、クラウドサービスへのアクセスポイントとなるネットワーク境界の保護は重要で、暗号化通信の徹底やファイアウォールの適切な設定が基本となります。また、定期的なセキュリティ監査やペネトレーションテストを実施し、潜在的な脆弱性を早期に発見・対処することも有効です。
仮想化環境特有の問題として、ハイパーバイザーの脆弱性や、複数テナント環境での情報漏えいリスクがあります。また、障害発生時のサービス停止やシステム復旧の遅延も重大な懸念事項です。
仮想マシン同士の分離が不十分な場合、一つの仮想マシンが攻撃を受けると、同じホスト上の他の仮想マシンにも影響が及ぶ可能性があります。このため、仮想化基盤のセキュリティ強化と、障害発生時の迅速な復旧体制の構築が欠かせません。
サービス基盤における主なリスクは、単一障害点(SPOF: Single Point of Failure)への攻撃や障害、サービス可用性の低下です。また、クラウドサービス事業者側の問題による予期せぬダウンタイムが発生するリスクもあります。
サービス基盤のセキュリティ対策では、システムコンポーネントの冗長化設計や、負荷分散システムの導入が効果的です。重要なサービスについては、特定のクラウド事業者に依存するリスクを回避するため、マルチクラウド構成を検討することも有効な戦略です。
統合管理環境の最大のリスクは、管理者権限を持つアカウントが侵害された場合、全てのリソースに攻撃者がアクセスできる可能性があることです。クラウド環境ではリソース管理が一元化されることで、管理者権限の重要性が一層増しています。
管理者アカウントの保護は最優先事項であり、多要素認証の導入や特権アカウント管理の徹底が効果的な対策となります。また、管理操作の詳細なログ取得と監査を定期的に実施し、不審な操作を早期に検知する体制を整えましょう。
クラウド上のデータは情報漏洩、データ消失、ランサムウェアを含むマルウェア感染などの脅威にさらされています。また、データの地理的所在地に関するコンプライアンスリスクも考慮しなければなりません。
データ管理のセキュリティ対策としては、保存データと転送中データの暗号化が基本となります。特に機密性の高いデータについては、厳格なアクセス権限管理を徹底し、定期的な見直しを行うことで安全性を高められるでしょう。また、地理的に分散したバックアップ体制を構築し、データ消失のリスクに備えることも必要です。
データの重要度に応じた管理が不十分な場合、重要情報の漏えいリスクが高まります。また、不適切な保護レベル設定により、必要以上のコストがかかる、あるいは保護が不十分になるおそれがあります。
データ分類のセキュリティ対策としては、機密性、完全性、可用性に基づく適切な分類と、それに応じた保護策の実施が効果的です。また、データ分類ごとに管理責任者を明確に設定し、社員に対するデータ取り扱いの教育も定期的に実施しましょう。
認証情報の盗難、フィッシング攻撃による認証情報の漏えい、不要アカウントの放置による不正アクセスのリスクがあります。クラウド環境では特に、IDとアクセス管理が重要な防御層となります。
ID管理のセキュリティ対策としては、多要素認証(MFA)の全面的な導入と強固なパスワードポリシーの策定・実施が基本です。また、定期的なアカウント棚卸しを行い、不要なアカウントを削除することも有効な手段となります。シングルサインオン(SSO)の導入により、ID管理を一元化し、セキュリティと利便性を両立させることも検討すべきです。
従業員のセキュリティ知識不足、内部犯行、ソーシャルエンジニアリングによる情報漏えいなど、人的要因によるリスクは依然として大きな脅威です。クラウド環境では特に、新しい脅威に対する意識の向上が必要です。
人員のセキュリティ対策としては、全社員を対象とした定期的かつ実践的なセキュリティ教育・訓練の実施が基本となります。また、明確なセキュリティポリシーを策定し、全社員に周知徹底することも重要です。インシデント対応訓練を定期的に実施し、有事の際の対応力を高めることも効果的です。
リスク領域 | 主なリスク | 効果的な対策 |
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インフラセキュリティ |
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仮想化基盤 |
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サービス基盤 |
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統合管理環境 |
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データ管理 |
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データ分類 |
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ID管理 |
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人員セキュリティ |
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この表を参考に、自社のクラウド環境における脆弱な部分を特定し、優先順位をつけて対策を実施していくことをお勧めします。すべての対策を一度に導入するのは難しい場合が多いため、リスク評価に基づいて重要度の高いものから順に取り組みましょう。
クラウドとオンプレミスのセキュリティを様々な角度から比較することで、自社に最適な環境を選択するための判断材料となります。
障害発生時の対応はクラウドとオンプレミスで大きく異なります。クラウド環境ではインフラやプラットフォームレベルの障害はクラウド事業者が対処し、アプリケーションやデータの問題は利用者の責任です。一方、オンプレミスでは全ての障害対応が自社の責任となるため、24時間監視体制や専門技術者の確保が必要になります。
クラウド環境の利点は、ハードウェア障害や基盤ソフトウェアの問題は事業者側で対応してくれる点にあります。大規模なクラウド事業者では、24時間365日の監視体制と専門の技術者によるサポートが提供されるため、迅速な障害対応が期待できます。反面、クラウドサービス全体に影響する大規模障害が発生した場合は、復旧を待つしかないというデメリットもあります。
オンプレミス環境では、自社でハードウェアからアプリケーションまで全ての障害対応を行う必要があります。これにより、障害の内容や影響範囲を自社で把握し、優先順位を決めて対応できるメリットがありますが、専門知識を持った人材の確保やコストが課題となります。
障害対応については、「サーバーダウンの原因は?リスクと防止策を解説」も参考になります。
自然災害に対するリスク対応能力は、クラウドとオンプレミスで大きな差があります。クラウド環境では地理的に分散したデータセンターを活用でき、災害によるシステム停止リスクを低減できます。オンプレミスでは自社設備の耐災害性強化に多額の投資が必要であり、中小企業では十分な対策を施すことが難しい場合が多いでしょう。
クラウド環境の主要な利点は、地理的に分散したデータセンターを活用できることです。大手クラウド事業者のデータセンターは、地震や洪水などの自然災害に対する高い耐性を備えており、電源や通信回線も冗長化されています。データのレプリケーションも地理的に離れた拠点間で行われるため、大規模災害時でもデータ消失のリスクを最小限に抑えられます。
一方、オンプレミス環境では、災害対策のために自社でデータセンターの二重化や遠隔地へのバックアップなどを行う必要があります。これらの対策には多額の費用がかかるため、特に中小企業では十分な災害対策を講じることが困難なケースが多いです。事業継続計画(BCP)の観点からも、クラウドサービスの活用は効率的な選択肢となる場合が多いでしょう。
BCP対策については、「BCPとは?企業の災害対策に重要なデータセンター選び」で詳しく解説しています。
クラウド環境のセキュリティは、適切な知識と対策によって高いレベルで確保することが可能です。8つのリスク領域に対して適切な対策を実施することで、安全なクラウド活用を実現できます。特に重要なのは、クラウド事業者と利用者の責任範囲を明確にし、自社の責任領域に対する対策を確実に実施することです。国際認証を取得したクラウドサービスを選定することも、安全性を担保する有効な手段となります。クラウド技術は進化し続けるため、最新のセキュリティ動向を把握し、継続的な対策の見直しが重要です。クラウドセキュリティへの投資は、事業継続性を確保し、企業価値を高めるための重要な経営戦略の一環として位置づけるべきでしょう。
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