医療のクラウド化とは?
メリット・デメリットから導入方法まで解説

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DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、医療業界でもクラウド技術の活用が急速に広がっています。政府が推進する医療DXのもと、電子カルテや医療画像などの膨大なデータをインターネット上で管理・共有するクラウドシステムの導入が進み、情報共有の迅速化や業務効率化が実現されつつあります。しかし、セキュリティへの懸念や導入コストの不安から、クラウド化に踏み切れない医療機関も少なくありません。本記事では、医療クラウドの基礎知識からメリット・デメリット、具体的な導入手順まで詳しく解説し、安全かつ効果的なクラウド活用のポイントをご紹介します。

医療のクラウド化とは?基礎知識を解説

医療業界におけるデジタル化が加速し、データ管理のあり方も変化しています。従来の紙媒体や院内サーバーに依存した情報管理から脱却し、効率的で安全なデータ運用を実現するための基礎を確認しましょう。

医療クラウドの定義と仕組み

医療クラウドとは、患者情報や電子カルテ、医療画像などをインターネット上のクラウドサーバーで一元管理・保存するシステムです。従来のオンプレミス型では医療機関が自前でサーバーを構築していましたが、クラウド型ではベンダーが提供するサーバーにデータを保存するため、高額なハードウェア投資が不要です。インターネット環境があれば場所を問わずアクセスでき、遠隔地のデータセンターに設置されたクラウドサーバーは、高度なセキュリティ対策と冗長化により安全性と可用性が確保されています。医療従事者は、院内だけでなく訪問診療先からも適切な認証を経てシステムにアクセスし、患者の診療情報をリアルタイムで確認できます。

医療業界でクラウド化が進む背景

少子高齢化による医療需要の増加と人手不足により、業務効率化が喫緊の課題です。特に2024年4月から医師の働き方改革が本格化し、限られた人的リソースで質の高い医療を提供する仕組みづくりが求められています。こうした背景から、政府が推進する医療DXでは電子カルテの標準化や医療機関間でのデータ共有が重点施策として掲げられており、地域医療連携や病診連携を実現するためにもクラウド基盤の整備が不可欠です。

実際に、政府は2030年までにおおむね全ての医療機関で、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指しています。これにより、異なる施設間でも円滑に情報をやり取りできる環境が整備されつつあり、患者がどの医療機関を受診しても、過去の診療履歴を迅速に参照できる医療連携の仕組みが期待されています。

クラウド化による業務効率化について詳しく知りたい方は、「クラウドで業務効率化を実現!メリットと活用のポイントを解説」も併せてご確認ください。

オンプレミス型との違い

医療ITシステムの導入形態には、従来のオンプレミス型と新しいクラウド型の2つがあり、それぞれ異なる特徴を持ちます。

初期費用を比較すると、オンプレミス型はサーバーやネットワーク機器の購入のために高額な設備投資を必要としますが、クラウド型は月額料金制で大幅に抑制できます。また、運用面ではオンプレミス型ではメンテナンスを自社で行う必要がありますが、クラウド型はベンダーが管理するため負担が軽減されます。さらに拡張性や災害対策の面でもクラウド型が優位です。

オンプレミス型は院内にサーバーを設置するため、物理的な故障リスクや自然災害によるデータ消失の危険性がありますが、クラウド型では遠隔地のデータセンターでデータが保管されるため、高い可用性とBCP対策を実現できます。

3省2ガイドラインとは

医療クラウドの導入には厚生労働省・経済産業省・総務省による3省2ガイドラインへの準拠が求められます。患者の個人情報や診療情報を安全に管理するためのセキュリティ基準を規定しており、ベンダーがガイドラインに準拠しているかの確認が安全なシステム運用の第一歩です。

このガイドラインでは、データの暗号化、アクセス制御、監査ログの記録、バックアップ体制など、技術的・組織的な対策が網羅されています。ベンダーがこの基準を満たしているかを確認することで、患者情報の漏洩や不正アクセスといったリスクを大幅に低減できます。

医療クラウド導入の5つのメリット

医療クラウドの導入により業務効率化やコスト削減など多面的な恩恵を受けられます。患者へのサービスの質向上と医療従事者の負担軽減を同時に実現できる具体的なメリットを確認しましょう。

情報共有とアクセス性の向上

診療科や部門間での情報共有がリアルタイムで可能となり、紙カルテの受け渡しに起因する人的ミスを削減できます。訪問診療や在宅医療でもタブレット端末から患者の診療履歴を即座に確認でき、病診連携や地域医療連携では医療機関同士でデータを共有することで迅速な医療提供が実現可能です。

クラウド型の電子カルテは、例えば内科で診察した医師が入力した情報を外科の医師がリアルタイムで参照できるため、検査結果や処方内容を瞬時に把握できます。また、救急搬送された患者の情報を救急外来で即座に確認できるため、迅速な初期対応が可能になり患者の予後改善にも寄与します。

初期費用と運用コストの削減

月額料金制が主流となっており、初期投資を大幅に抑制できます。サーバー機器の購入費用や設置工事費が不要となり、システムのバージョンアップやセキュリティパッチの適用も医療機関側で対応する必要がないため、IT専門人材の採用コストも削減可能です。さらに、カルテや問診票のペーパーレス化により印刷費用や保管スペースのコストも圧縮されます。

特に中小規模の医療機関にとって、数千万円規模の初期投資を避けられる点は大きな魅力です。月額数万円から数十万円の範囲で利用開始でき、必要に応じて段階的に機能を追加していけるため、財務負担を軽減しながらデジタル化を進められます。

業務効率化と負担軽減

手作業で行っていた多くの業務がシステムによって自動化されます。医師のオーダリング情報が瞬時に薬剤部や検査部門に伝達され処方ミスを防止し、電子カルテと医事会計システムが連動することで診療内容から自動的に保険点数が計算され会計処理の負担が軽減されます。

また、バイタルサインを電子カルテに直接入力することでグラフ化され、経時的な変化を視覚的に把握できます。ほかにも予約管理システムと連携することで患者の来院予定を一元管理でき、待ち時間の短縮や診察室の効率的な運用が実現し、医療従事者の労働時間削減にも直結します。

セキュリティとBCP対応

データの暗号化技術、多要素認証、アクセス権限の設定などの対策を講じることで、不正アクセスのリスクを最小限に抑えられます。災害で医療機関が被災した場合でもクラウド上のデータは遠隔地のサーバーに保存されているため消失せず、自動バックアップ機能により万が一の障害時にも迅速に復旧できます。

東日本大震災や熊本地震では、多くの医療機関が紙カルテの流失や院内サーバーの破損によって診療情報を失いました。一方でクラウド型システムでは、地理的に離れたデータセンターでデータが保護されるため、災害時医療の継続性を確保できます。

BCP対策の具体的な手法について詳しく知りたい方は、「災害に強いBCP対策とは?分散バックアップの重要性と実践法」も併せてご確認ください。

データ容量の柔軟な拡張性

CTやMRIの画像は1件あたり数百MBから数GBに達することもありますが、必要に応じて契約変更だけで容量を追加できます。医療機関の規模拡大や診療内容の変化に合わせて柔軟にシステム規模を調整できるため、過剰投資や容量不足のリスクを回避できます。

オンプレミス型では将来の容量増加を見越して、初期段階で大容量のストレージを購入するようなケースもありましたが、クラウド型は実際に使用した分だけ課金されるため不要なコストの削減が可能です。また、画像診断装置の導入や新たな診療科の開設によってデータ量が急増した場合でも、即座に容量を拡張できます。

医療クラウドのデメリットと対策

医療クラウドには多くのメリットがある一方で、導入にあたって懸念点も存在します。これらの課題を事前に理解し適切な対策を講じることで安全かつ効果的なクラウド活用が可能です。

セキュリティリスクへの対策

インターネット経由でデータにアクセスするため不正アクセスやサイバー攻撃のリスクが懸念されます。2段階認証や生体認証などの多要素認証を導入しデータの暗号化により万が一情報が流出しても内容を読み取れないようにする措置が必須です。そのため、3省2ガイドラインに準拠し、ISO27001などのセキュリティ認証を取得しているベンダーを選ぶことで、信頼性の高いシステム運用が可能です。

医療情報は要配慮個人情報に該当するため、特に厳格な管理が求められます。クラウドサービスを選定する際には、定期的な脆弱性診断や侵入テストの実施状況、インシデント発生時のオペレーション体制を確認し、医療機関側でも職員へのセキュリティ教育を徹底することが欠かせません。

インターネット接続への依存性

インターネット接続を前提とするため回線障害時にシステムにアクセスできなくなるリスクがあります。複数の回線を用意してバックアップ体制を構築し、主回線に障害が発生しても予備回線に切り替わる冗長構成を採用することが推奨されます。緊急時に備えて、当日の診療予定やアレルギー情報、処方内容、重要な既往歴など、診療継続に必要な患者情報をローカル環境にも保存しておく、ハイブリッド型の運用も検討すべきです。

具体的には、光回線とモバイル回線の2系統を用意しておくことで、一方が使用できなくなっても診療業務を継続できます。クラウドサービス側でも複数のデータセンターに負荷分散されている場合が多く、ひとつのセンターに障害が発生しても他のセンターで処理が継続される仕組みが整っています。

運用コストの増加リスク

初期費用を抑えられる一方でデータ容量の増加や機能追加により月額料金が上昇するリスクがあります。導入前に自院のワークフローを詳細に分析し、本当に必要な機能を明確化することが大切です。そのうえで、複数のサービス提供事業者から見積もりを取得し、3年から5年のTCO(総所有コスト)を比較して長期的なコスト効率を評価することが必要です。さらに、導入時はスモールスタートで特定の部門や必要最小限の機能から始め、段階的に拡大していくことが推奨されます。

また、ユーザー数の増加、ストレージ容量の追加、オプション機能の利用などで料金が変動するため、契約前に料金体系を詳細に確認し、将来的な拡張を見越したコストシミュレーションを行うことが大切です。年間契約や複数年契約で割引が適用される場合もあるため、自院の利用規模や予算に応じた最適な契約形態を選択しましょう。

医療クラウド導入の手順

医療クラウドを安全かつ効果的に導入するには段階的なアプローチが重要です。計画段階から運用開始まで、各ステップで押さえるべきポイントを確認しましょう。

ステップ1:自院のワークフローの可視化と課題の明確化

まず現状の業務フローを詳細に把握することから始めます。各部署でどのような情報をいつどのように利用しているか、紙カルテや既存システムでどのような課題があるかを洗い出します。診療科ごとの業務特性や患者データの流れを可視化することで本当に必要な機能が明確になり、クラウド化によって解決したい課題の優先順位をつけられます。

外来診療では患者の待ち時間短縮のため、予約システムとの連携や診察の進行状況を可視化する機能が求められます。また、入院病棟では看護師の業務効率化のため、音声入力やテンプレート機能を備えた電子カルテが有効です。各部署の具体的な課題を明らかにすることで、導入後の効果を最大化できます。

ステップ2:施設内での目的と要件の共有

クラウド導入は医療現場全体に影響を与えるため、経営層から現場スタッフまで幅広い関係者の理解と協力が不可欠です。医師、看護師、医事課、システム担当者など関係者全員で導入目的を共有し必要な機能要件を整理します。現場スタッフの意見を取り入れることで実際の業務に即したシステム選定が可能になり、各部署の懸念事項をヒアリングすることで現場の不安を軽減できます。

導入プロジェクトチームを立ち上げ、定期的に進捗報告や意見交換の場を設けることが推奨されます。システムに不慣れな職員の不安を解消するため操作の簡便さやサポート体制の充実度も選定基準に含め、経営層には投資対効果を示すことで予算確保への理解を得やすくなります。

ステップ3:ベンダー・サービスの比較検討

複数のベンダーやサービスについて、機能・セキュリティ対策・サポート体制・料金体系を総合的に比較します。3省2ガイドラインへの準拠状況、ISO27001などのセキュリティ認証取得の有無、実績のある医療機関の導入事例を確認します。初期費用だけでなく3年から5年のTCO(総所有コスト)を算出し月額料金の変動要因も把握しておくことが必要です。

デモンストレーションやトライアル利用を活用して、実際の操作感や画面の見やすさを確認することも大切です。導入後のサポート体制として、問い合わせ受付時間や対応可能な時間帯、システム障害時の復旧時間の目安、オンサイト対応の可否なども確認しておきましょう。

ステップ4:既存システムからのデータ移行と段階的な運用開始

既存の電子カルテやオンプレミスシステムからクラウドへのデータ移行は、慎重に進める必要があります。そのため、全部門を一度に移行するのではなく、特定の部門や機能から段階的に導入し、運用状況を確認しながら徐々に範囲を拡大していくスモールスタート方式が推奨されます。また、移行期間中も診療業務を継続できるよう段階的な移行計画を策定し、データの整合性確認やスタッフへの操作トレーニングを十分に行います。

例えば、まず外来診療部門だけでクラウド型電子カルテの運用を開始し、問題がないことを確認してから入院部門や検査部門へ展開していく方法が有効です。さらに、移行期間中は新旧システムを並行稼働させることで、トラブル発生時にも診療を継続できる体制を維持します。

システム移行を検討されている方は、「マイグレーションとは?メリットや手法、失敗しないためのポイントを解説」も併せてご確認ください。

医療クラウドが切り拓く持続可能な医療の未来

医療クラウドは情報共有の迅速化、コスト削減、業務効率化、高いセキュリティ性とBCP対応、データ容量の柔軟な拡張性といった多くのメリットをもたらします。医師の働き方改革が本格化し限られた人的リソースで質の高い医療を提供することが求められる現在、クラウド技術の活用は避けて通れない選択肢です。一方で、セキュリティへの懸念や運用コストの増加リスクは、3省2ガイドラインに準拠したサービスの選定や多要素認証などの適切な対策により十分にコントロール可能です。そのため、導入にあたっては自院のワークフローを分析して必要な機能を明確にしたうえで、複数のサービス提供事業者から見積もりを取得し、比較検討することが必要です。

医療クラウドの導入と運用には信頼性の高いインフラ基盤が不可欠です。STNetでは「STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]」とデータセンター「Powerico(パワリコ)」により、お客さまの医療DX推進を支援しています。「STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]」では、必要な分だけリソースを利用できコストを抑制しながら効率的なシステム運用が可能です。「Powerico(パワリコ)」はJDCC最高水準の「ティア4」に準拠した施設で、24時間365日の監視体制により安定した運用環境を提供します。医療機関における安全で効率的なクラウド基盤の構築に向けて、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事で紹介しているサービス

STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]

一般的なパブリッククラウドサービスの手軽さに加え、サーバー基盤構築に重要な「安心感」と「自由度」を兼ね備えた国産クラウドサービスです。

Powerico(パワリコ)

自然災害リスクの低い安全な立地と高信頼のファシリティ、多様な運用サービスで、お客さまのサーバーを安全に保管・運用します。

よくあるご質問

Q. 医療クラウドとは

A. 医療クラウドとは、患者情報や電子カルテ、医療画像などのデータをインターネット上のクラウドサーバーで管理・保存するシステムです。医療機関が自前でサーバーを構築する必要がなく初期費用を抑えながら高度なITシステムを利用できます。

詳しくは「医療のクラウド化とは?基礎知識を解説」をご覧ください。

Q. 医療クラウドの主なメリット

A. 医療クラウドの主なメリットは情報共有の迅速化、初期費用・運用コストの削減、業務効率化、高いセキュリティ性とBCP対応、データ容量の柔軟な拡張性の5つです。部門間や施設間でのリアルタイムな情報共有が可能になる点が大きな利点となります。

詳しくは「医療クラウド導入の5つのメリット」をご覧ください。

Q. 医療クラウドのセキュリティの安全性

A. 医療クラウドは暗号化技術、多要素認証、アクセス管理などの高度なセキュリティ対策を適切に実装することで、紙カルテやオンプレミス型と比較してもセキュリティ性は高いとされています。3省2ガイドラインに準拠したサービスを選ぶことで安全性をさらに高められます。

詳しくは「セキュリティとBCP対応」をご覧ください。

Q. 医療クラウドの導入手順

A. 導入手順は①自院のワークフローの可視化、②施設内での認識共有、③ベンダー・サービスの比較検討、④既存システムからのデータ移行の4ステップです。事前に院内の課題を明確にし必要な機能を整理してから導入することが成功のポイントとなります。

詳しくは「医療クラウド導入の手順」をご覧ください。