災害に強いBCP対策とは?分散バックアップの重要性と実践法

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課題解決のためのノウハウ

システム停止や災害によるデータ消失は、企業の存続を左右する深刻な問題です。多くの企業では同一拠点内でのバックアップ体制を整えていますが、地震や火災などの災害時には、メインシステムとバックアップが同時に被害を受けるリスクが存在します。このような課題を解決するのが、地理的に離れた複数拠点にデータを保存する分散型の保護戦略です。本記事では、BCP対策として重要性が高まっている遠隔地バックアップの基本概念から、クラウド技術を活用した実装方法、導入時の注意点まで、事業継続性を確保するための実践的なデータ保護戦略について分かりやすく解説します。

分散バックアップとは?BCPにおける基本概念と必要性

企業の事業継続において、データ保護は最も基本的でありながら最も困難な課題の一つといえるでしょう。従来の多重化だけでは対応できないリスクを理解し、分散化による真のデータ保護戦略について確認していきます。

従来の多重化バックアップの限界とリスク

同一拠点内での機器冗長化やRAID構成によるバックアップは、システム障害には対応できるものの、災害時の同時被災リスクを解決できません。地震や洪水などの広域災害では、メインシステムとバックアップシステムが同時に被害を受ける可能性があります。

特に日本では、自然災害が頻発する地理的特性があります。2011年の東日本大震災では、多くの企業が本社機能とデータセンターを同じ地域に配置していたため、同時被災により事業継続が困難になった事例が数多く報告されました。サイバー攻撃による同時感染や停電による全システム停止など、単一拠点での対策では回避困難なリスクが存在しているといえるでしょう。

また、人的ミスによるデータ削除や、設備故障による物理的損失も考慮する必要があります。これらのリスクは、同一拠点内の冗長化だけでは十分に対応できないため、地理的な分散が欠かせません。

分散バックアップの基本概念と3-2-1ルール

分散バックアップとは、データを地理的に離れた複数の拠点に保存することで、局所的な災害や障害からデータを保護する手法です。この考え方の基礎となるのが3-2-1ルールで、データ保護の業界標準として広く採用されています。

3-2-1ルールの具体的な内容は、3つのデータコピーを作成し、2種類の異なる媒体に保存し、1つは遠隔地に配置するという原則です。まず「3つのコピー」では、オリジナルデータに加えて最低2つのバックアップを作成します。次に「2種類の媒体」では、ハードディスク、SSD、テープ、クラウドストレージなど異なる技術を組み合わせることで、特定の媒体に起因する障害リスクを分散します。最後に「1つは遠隔地」では、災害リスクの異なる地理的に離れた場所にデータを配置することで、同時被災の可能性を最小限に抑制します。現代のクラウド技術により、この3-2-1ルールの実装は以前よりも容易かつ経済的に行えるようになっており、中小企業でも導入しやすい環境が整っています。

BCP戦略における分散バックアップの位置づけ

分散バックアップは、単なるデータ保護手段ではなく、事業継続戦略の中核を担う要素です。RTO(Recovery Time Objective:災害発生時にシステムを復旧させる目標時間)の短縮とRPO(Recovery Point Objective:どの時点までのデータを復旧させるかの目標)の最適化により、災害発生時の事業中断時間を最小限に抑えることができます。

金融機関や製造業などの基幹システムでは、数分から数時間の停止でも大きな損失につながるため、分散バックアップによる迅速な復旧体制が不可欠となっています。例えば、金融機関では1時間のシステム停止で数億円の損失が発生する可能性があり、製造業では生産ライン停止により大量の機会損失が生じます。

さらに、分散バックアップは法的コンプライアンスの観点からも重要です。金融商品取引法や個人情報保護法では、データの適切な管理と保護が求められており、分散バックアップはこれらの要件を満たすための有効な手段となります。

BCP対策の基本について詳しく知りたい方は、「BCP対策とは?事業存続のカギとなるデータ管理の実践方法」もご覧ください。

クラウドを活用した分散バックアップの実践方法

クラウド技術の進歩により、分散バックアップの実装は大幅に簡素化され、コスト効率も向上しました。ここでは、クラウドを活用した効果的な分散バックアップ戦略について具体的な実装方法を検討していきます。

クラウド活用による分散化のメリットと特徴

クラウドサービスを活用することで、従来の物理的なデータセンター運用の制約から解放され、効率的な分散バックアップ戦略を構築できます。

初期投資の大幅削減

物理的なインフラ構築が不要となり、従量課金制により必要な分だけコストが発生します。設備投資リスクを回避できます。

世界規模での分散配置

グローバルなデータセンターネットワークにより、地理的に離れた複数拠点への配置が容易に行えます。

自動化機能の充実

定期バックアップ、整合性チェック、障害時の自動復旧など、人的ミスを防止する機能が標準実装されています。

柔軟なスケーラビリティ

データ量の増減に応じてリソースを動的に調整でき、ビジネスの成長に合わせた拡張が可能です。

24時間365日の監視体制

専門スタッフによる常時監視により、データの整合性と可用性が確保されています。


これらの特徴により、災害発生時には被災地以外の区域から即座にデータアクセスが可能となり、在宅勤務環境での業務継続も実現できます。

マルチリージョン構成による最適な分散戦略

効果的な分散バックアップを実現するには、地理的に離れた複数の区域(リージョン)にデータを配置することが基本となります。単一リージョンでの運用では、広域災害時に全システムが同時被災するリスクが残存するためです。

国内での分散戦略では、東京と大阪、札幌といった異なる地震リスクを持つ地域を選択することが効果的です。国際的な展開では、日本とシンガポール、オーストラリアなど、気象災害パターンや政治的安定性が異なる地域を組み合わせることで、より高い可用性を確保できます。データの重要度と復旧要件に応じて、リアルタイム同期とバッチ処理を使い分けることで、コストと復旧時間のバランスを最適化することができます。

また、ハイブリッドクラウド構成の活用により、機密性の高いコアデータは自社データセンターまたはプライベートクラウドに配置し、アクセス頻度の低いアーカイブデータはパブリッククラウドに保存するといった柔軟な運用も実現できます。このアプローチにより、セキュリティ確保とコスト効率化の両立が図れます。

ハイブリッド構成におけるデータセンター選定のポイント

前述のハイブリッドクラウド構成では、オンプレミス環境とクラウド環境を組み合わせた分散バックアップが効果的です。この場合、自社データセンターまたは利用するハウジングサービスの選定が大切になります。クラウドサービスと連携する前提で、オンプレミス側のデータセンター選定における考慮点を確認していきましょう。

ハイブリッド分散バックアップの効果を最大化するには、クラウドサービスと組み合わせるオンプレミス側のデータセンター選定が極めて大切な要素です。単純に距離が離れているだけでは不十分で、クラウドサービスプロバイダーとの連携を前提とした総合的な評価が必要です。

クラウドとの接続性確保

AWS Direct Connect、Azure ExpressRoute、Google Cloud Interconnectなど、主要クラウドサービスとの専用線接続が利用できるデータセンターを選択します。安定した高速通信により、リアルタイム同期の品質が向上します。

立地条件の詳細評価

クラウドのリージョンと異なる災害リスクを持つ地域を選択し、地震、洪水、台風などの自然災害リスクが低い場所を選びます。活断層からの距離や海抜の高さも大切な要素です。

インフラの多様性確保

クラウドサービスプロバイダーとは異なる電力系統、通信事業者、インターネット接続プロバイダーを利用するデータセンターを組み合わせ、単一障害点を排除します。

設備レベルの検証

電源冗長化(UPS、自家発電機)、空調システム、消火設備の充実度を総合的に評価します。クラウド側の障害時に確実に稼働できる設備が必要です。

セキュリティ基準の確認

物理セキュリティ、アクセス制御システム、監視カメラ、入退館管理の厳格性を検証します。クラウドとのデータ連携時の暗号化対応も重要です。

認証・コンプライアンス

ISO27001、ISMS、データセンターの信頼性認証などの第三者認証取得状況を確認します。データセンター認証には、Uptime InstituteのTier認証(Tier I~IV)や、日本データセンター協会(JDCC)のティア認証などがあり、各々異なる評価基準でデータセンターの可用性と障害耐性を評価しています。

運用サポート体制

24時間365日の監視体制と迅速な障害対応に加え、クラウド連携時のトラブルシューティングに対応できる技術サポートがあることを確認します。


これらの評価項目を総合的に検討し、クラウドサービスとの連携を前提とした運用ができるデータセンターを選択することで、ハイブリッド分散バックアップの実効性が確保されます。特に、クラウド側の障害時にはオンプレミス側が主系として機能する必要があるため、高い可用性と安定性を持つデータセンターの選定が不可欠です。

データセンターの選び方について詳しくは、「データセンターとは?5つのメリットと失敗しない選び方を徹底解説」をご参照ください。

復旧体制の整備と自動化による運用効率化

分散バックアップの真価は、災害時の迅速かつ確実な復旧にあります。いくら分散してデータを保存していても、復旧プロセスが整備されていなければ、事業継続の実現は困難です。

復旧体制の整備では、まず詳細な復旧手順書の作成と定期的な更新が欠かせません。手順書には、災害の規模や種類に応じた復旧シナリオ、担当者の役割分担、緊急時の連絡体制、代替手段の確保方法などを明記する必要があります。さらに、年2回以上の復旧テストを実施し、実際の災害を想定した訓練により課題を洗い出し、継続的な改善を図ることが重要です。

自動化の観点では、障害検知から復旧作業開始までのプロセスを可能な限り自動化することで、人的要因による遅延を最小限に抑制できます。監視システムによる異常検知、自動フェイルオーバー機能、データ整合性の自動チェック機能などを組み合わせることで、迅速な復旧が実現できます。複数のバックアップサイト間での優先順位を明確にし、プライマリサイトの復旧が困難な場合のセカンダリサイトへの切り替え手順も整備しておくことが不可欠です。

分散バックアップ導入時の注意点と成功のポイント

分散バックアップの導入には、技術的な課題やコスト管理、運用面での注意点があります。これらの課題を適切に対処し、成功に導くためのポイントについて実践的な観点から解説します。

導入時に検討すべき技術的課題とコスト要因

分散バックアップの導入では、技術的な制約とコスト要因を事前に十分検討し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。

ネットワーク帯域幅の制約

大容量データの転送には時間がかかるため、業務時間外での実施やデータ圧縮技術の活用が必要です。差分バックアップの導入も効果的です。

初期移行の複雑性

完全バックアップでは膨大な時間を要するため、オフライン転送サービスの併用や段階的移行の検討が求められます。

通信コストの増加

データ転送量に応じた通信費用の増加を見込み、コスト最適化戦略を策定する必要があります。

セキュリティ管理の複雑化

複数拠点でのデータ暗号化、アクセス制御の一元管理が困難になるため、包括的なセキュリティポリシーが必要です。

ライセンス費用の複雑化

複数のクラウドサービス利用により、ライセンス体系が複雑になる恐れがあります。


これらの課題に対しては、段階的な導入アプローチにより、小規模なパイロットプロジェクトから開始し、運用ノウハウを蓄積してから本格展開することでリスクを最小化できます。

段階的導入によるリスク軽減アプローチ

分散バックアップの導入では、全社システムを一度に移行するのではなく、段階的なアプローチによりリスクを最小化することが重要です。

フェーズ1:重要度が低いシステムから開始

ファイルサーバーやアーカイブデータなど、業務への影響が少ないシステムから導入を開始します。分散バックアップ運用のノウハウ蓄積が可能です。

フェーズ2:業務アプリケーションの段階移行

CRMやERPなどの業務システムのデータベースを対象に、小規模アプリもしくはシステムから段階的に移行を実施します。

フェーズ3:基幹システムの本格導入

会計システムや顧客管理など、事業の中核となるシステムの分散バックアップを構築します。

フェーズ4:運用プロセスの最適化

災害復旧テストの実施と課題の洗い出しにより、運用プロセスを継続的に改善します。


データの分類と優先順位付けにより、基幹データは高頻度での分散バックアップ、アーカイブデータは低頻度での保存とすることで、コストと効果のバランスを最適化できます。ホット、クール、アーカイブストレージの使い分けも効果的です。

効果測定と継続的改善による分散戦略の最適化

分散バックアップの効果を定量的に測定し、継続的な改善を図ることで、長期的な成功を実現できます。効果測定では、復旧時間の短縮度合い、データ損失リスクの軽減効果、運用効率の改善などの指標設定が有効です。

具体的なKPIとして、RTO短縮率では災害前後の復旧時間比較による改善度合いを測定し、RPO達成率では目標復旧ポイントの達成状況を評価します。システム稼働率の向上とダウンタイムの削減効果、投資対効果(ROI)と運用コストの最適化度合いも重要な指標となります。

災害訓練やシステム障害時の実績データを蓄積し、目標復旧時間の達成状況を継続的にモニタリングする必要があります。訓練結果から得られた課題や改善点を基に、復旧手順の見直しや技術的な改良を実施します。技術の進歩やビジネス要件の変化に応じて、分散戦略を定期的に見直し、最新のクラウドサービスや技術を活用した改善を図ることが、真の事業継続性を実現する分散バックアップ戦略の構築につながります。

システムバックアップの詳細については、「システムバックアップとは?その重要性とスムーズに進めるための方法を解説」もご覧ください。

事業継続を支える分散バックアップ戦略の構築

分散バックアップは、現代の企業にとって事業継続性を確保するための必須要件となっています。従来の多重化だけでは対応できない災害リスクに備え、地理的に分散したデータ保護戦略を構築することが重要です。クラウド技術の活用により、中小企業でも経済的に分散バックアップを実現できる環境が整っており、段階的な導入により リスクを抑制しながら効果的な対策を講じることが可能です。継続的な改善と最新技術の活用により、真の事業継続性を実現する分散バックアップ戦略を構築していきましょう。

STNetでは、分散バックアップ戦略に最適なソリューションを提供しています。自然災害の少ない香川県に立地し、最高水準のJDCC「ティア4」に準拠した西日本最大級のデータセンター「Powerico(パワリコ)」は、BCP対策における遠隔地バックアップサイトとして理想的な環境です。24時間365日の監視体制により、お客さまの重要なデータを確実に保護します。また、STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]との組み合わせにより、オンプレミス環境とクラウド環境を活用したハイブリッド分散バックアップが実現できます。データの重要度に応じて最適な保管場所を選択し、コストと安全性のバランスを取った分散戦略を構築可能です。分散バックアップによるBCP対策の検討をされる際は、ぜひお気軽にお問い合せください。

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