データセンター移行の3つの方法と失敗しない手順を解説

課題解決のためのノウハウ
DX推進やIoTデバイスの急速な普及により、低遅延処理への需要が高まる中、エッジデータセンターが注目を集めています。従来の集中型データセンターでは対応困難なリアルタイム処理を可能にし、5G時代の新たなサービス創出を支える重要なインフラとして期待されています。本記事では、エッジデータセンターの基本概念から最新市場動向まで、企業の情報システム部門担当者に向けて包括的に解説いたします。
エッジデータセンターの基本的な定義から始まり、従来の集中型データセンターとの根本的な相違点について解説していきます。
エッジデータセンターとは、ユーザーやデバイスに物理的に近い場所に設置される小規模なデータセンターのことです。「エッジ(端)」という名称が示すとおり、ネットワークの端に位置し、データ処理をユーザーの近くで実行することを目的としています。
規模としては企業や産業の集積地の15km圏内に配置され、ラック数は数百から数千、面積は1,000~10,000坪程度の中小規模施設が一般的とされています。迅速な応答性能を実現するための分散型アーキテクチャを採用し、従来の大規模集約型データセンターとは明確に異なる設計思想を持っています。
ハイパースケールデータセンターが5,000台以上のサーバーを格納し、平均25MW以上の電力容量を持つ大規模集約型施設であるのに対し、エッジデータセンターは地理的に分散した小規模施設群として展開されます。処理方式においても、従来型が膨大なデータを一箇所に集約して処理するのに対し、エッジ型はデータ発生源近くでリアルタイム処理を行う点が特徴です。
投資規模や運用形態も大きく異なり、段階的な展開が可能なエッジデータセンターは、初期投資を抑えながら必要に応じて拡張できる柔軟性を持っています。この違いにより、企業は自社のビジネス要件に合わせたインフラ戦略を選択することができます。
データセンターの基本的な仕組みについて詳しく知りたい方は、「データセンターとは?基礎知識からクラウドとの比較、導入メリットまで徹底解説」も併せてご覧ください。
エッジコンピューティングという分散処理アーキテクチャを物理的に実現するのがエッジデータセンターです。IoTデバイスや各種センサーから収集されるデータを、クラウドに送信する前にエッジ側で前処理・分析・判断を行うことで、ネットワーク負荷軽減と応答速度向上を同時に実現します。特に機械学習推論やリアルタイム制御など、瞬時の判断が求められる用途では、エッジでの処理能力が競争優位の源泉となりつつあります。
例えば、製造業の品質検査ラインでは、画像認識による不良品判定をエッジで実行することで、生産ラインの停止を最小限に抑えることができます。このように、エッジコンピューティングとエッジデータセンターは相互補完的な関係にあります。
マイクロデータセンターは、サーバー・ストレージ・ネットワーク機器・電源・冷却装置などを一体化したモジュール型システムを指します。一方、エッジデータセンターは地理的配置と処理機能に着目した概念であり、マイクロデータセンターがエッジデータセンターの一形態として活用されるケースも多くなっています。
コンテナ型やプレハブ型など、迅速な設置が可能なマイクロデータセンターは、エッジ展開の有力な選択肢として注目されています。両者の関係性を理解することで、企業は自社のデジタル変革戦略に最適なインフラ選択を行うことができるでしょう。
エッジデータセンター導入により企業が得られる具体的な効果について、技術面・運用面・経済面の観点から詳細に説明いたします。
エッジデータセンターの最大の価値は、通信遅延の劇的な改善にあります。総務省の情報通信白書によると、「5Gにおける遅延は1ミリ秒程度とされており、4Gの10分の1程度に短縮される」とされています。エッジデータセンターと5G技術の組み合わせにより、この超低遅延通信が実現されます。
5G技術は無線区間で1ミリ秒程度の低遅延を実現できますが、エンドツーエンドでの超低遅延通信を実現するには、エッジデータセンターとの組み合わせが不可欠です。エッジデータセンターにより物理的距離を短縮し、5Gの低遅延性能と組み合わせることで、東京都心部であれば1ミリ秒程度、都心周辺部でも4ミリ秒程度の超低遅延通信が実現でき、従来の20ミリ秒以上の遅延と比較して飛躍的な改善が可能です。
4Gでは安全性の観点から実現が困難とされていた自動運転や遠隔でのロボット操作も5Gでは実現させることが可能となります。この超低遅延性能により、これまで技術的制約で実現できなかった新たなサービスの創出が期待されています。
参照:総務省|令和2年版 情報通信白書|5Gの基本コンセプト
5G通信の高速化と処理側の高速化を同時に実現することで、真のリアルタイム処理が可能になります。製造業の品質検査ラインにおける画像解析や、小売業の需要予測など、タイムリーな判断が競争力に直結する分野での活用効果は特に顕著です。例えば、自動車部品の製造工程では、従来は検査結果の判定に数秒かかっていた処理が、エッジでの高速処理により数十ミリ秒で完了し、生産効率の大幅な向上を実現できます。
また、AIによる推論処理をエッジで実行することで、クラウド側の計算リソース使用量削減にも寄与し、全体的なシステム効率の最適化が図れます。これにより、企業は従来以上に迅速な意思決定と事業運営が可能になります。
機密性の高いデータをクラウドに送信せず、エッジ側で処理完結することで、情報漏洩リスクを大幅に軽減できます。医療分野では患者の個人情報を含むカルテデータ、製造業では技術ノウハウに関わる生産データなど、外部流出が許されない情報をローカル処理することで、プライバシー保護と業務効率化の両立が可能です。GDPR等の厳格なデータ保護規制への対応においても、エッジ処理は有効な選択肢となっています。
さらに、データの物理的な移動範囲を限定することで、サイバー攻撃の対象範囲も縮小でき、セキュリティリスクの総量を削減することが可能です。この特性により、規制の厳しい業界でもデジタル技術の活用を安全に進めることができます。
大量のIoTデータをすべてクラウドに送信・保存すると、通信費用とストレージ費用が急激に増大します。エッジ側で前処理を行い、必要なデータのみをクラウドに送信することで、これらのコストを大幅に削減できます。特に動画解析や大容量センサーデータを扱う用途では、通信量の最適化によるコスト削減効果は顕著に現れます。
また、クラウド側の計算リソース使用量削減により、従量課金コストの最適化も実現できます。例えば、工場の監視カメラから収集される映像データを全てクラウドに送信する代わりに、エッジで異常検知のみを行い、アラート情報のみを送信することで、データ転送量を90%以上削減できるケースもあります。これにより、企業は運用コストを抑制しながら高度なデジタル化を推進できるのです。
地理的に分散したエッジデータセンター網により、一箇所の障害が全体に影響を与えるリスクを軽減できます。各エッジ拠点が独立して動作可能な設計とすることで、自然災害やシステム障害時の事業継続性が大幅に向上します。また、バックアップサイトとしての機能も果たすため、BCP対策の一環としても注目されています。
従来の集中型システムでは、メインデータセンターの障害が全社的なシステム停止を引き起こすリスクがありましたが、エッジ分散型では局所的な影響に留めることができます。災害大国である日本において、この冗長性向上は企業の競争力維持にとって極めて重要な要素となっています。
事業継続におけるデータセンター活用については、「BCP対策とは?事業存続のカギとなるデータ管理の実践手法」も参考にしてください。
急成長するエッジデータセンター市場の現状と今後の見通しについて、市場予測データや主要な活用分野を中心に解説します。
エッジデータセンター市場は急速な拡大を続けており、2025年の世界市場規模は128億ドルに達し、2030年には312億ドルまで成長すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は19.33%と、IT業界の中でも特に高い成長率を示しています。日本市場においても、総務省によるとエッジコンピューティング関連の市場規模が2024年に1.6兆円、2027年には2.3兆円まで拡大する見込みです。
この成長を支える要因として、5G普及、IoTデバイス増加、AI活用拡大などが挙げられています。特に製造業やヘルスケア業界での需要拡大が市場成長の主要なドライバーとなっており、企業のデジタル変革戦略において、エッジデータセンターは不可欠となり、その地位を確立しつつあります。
参照:総務省「令和6年版情報通信白書|エッジコンピューティング」
エッジコンピューティングは低遅延化などのメリットがある一方で、規模や処理能力に限界がありコスト増にもつながるため、すべての用途でエッジコンピューティングを利用するのではなく、用途を限定して利用することが一般的です。
主なユースケースとして、スマートファクトリー、機械やロボットの遠隔操作、高精細映像伝送、AR/VRによる仮想空間サービス、自動運転、ゲームやメタバースなどが想定され、低遅延を考えると製造業、建設業などにおける遠隔操作での利用が多いものと推察されます。5Gネットワークの本格普及により、これらの用途でのエッジデータセンターの重要性はさらに高まっており、新たなビジネスモデルの創出を促進しています。
エッジデータセンターは様々な業界で実用化が進んでおり、リアルタイム処理が求められる分野での活用が特に注目されています。
車両制御に必要な瞬時判断をエッジで処理することで安全性を確保しています。センサーが危険を察知してからブレーキをかけるまでの遅延時間短縮により、衝突事故の回避能力が向上します。
遠隔診療や手術支援における画像伝送の高品質化で活用されています。患者の個人情報をローカル処理することで、プライバシー保護と診療効率化を両立しています。
スマートファクトリーにおける品質管理自動化や予知保全で導入が進められています。工場内の大量センサーデータをリアルタイム解析し、生産効率向上と設備故障の未然防止が図られています。
交通制御・防犯カメラ解析・環境モニタリングなどで活用されています。都市インフラのデジタル化を支える基盤として、市民生活の安全性と利便性向上に貢献しています。
これらの業界事例からも分かるように、エッジデータセンターは単なる技術インフラではなく、各業界の課題解決と新たな価値創出を実現する戦略的資産として位置づけられています。今後も業界ごとの特性に応じた専用ソリューションの開発が進むと予想されます。
エッジデータセンターの普及には、運用管理の複雑化、初期投資コスト、技術者不足などの課題も存在します。多数の小規模拠点を効率的に管理するための統合運用プラットフォームの開発、エネルギー効率の向上、セキュリティ対策の標準化などが技術革新の重点領域となっています。
また、6G時代を見据えた次世代エッジアーキテクチャの研究開発も本格化しており、より高度な分散処理能力を持つエッジインフラの実現に向けた取り組みが加速しています。特に、AIの民主化とエッジでの機械学習処理の高度化により、従来クラウドでしか実現できなかった複雑な処理がエッジで可能になることで、新たなサービス領域の開拓が期待されています。
エッジデータセンターの導入を成功させるためには、従来のデータセンター選定とは異なる観点での評価が必要です。立地条件から運用体制まで、企業が検討すべき重要なポイントを解説します。
エッジデータセンター選定において、立地は主要な要素のひとつです。ユーザーやIoTデバイスとの物理的距離を最小化できる場所を選ぶことで、低遅延通信の効果を最大化できます。同時に、地震や台風などの自然災害リスクが低く、安定した電力供給と高速通信インフラが整備された地域を選択することが不可欠です。
技術面では、想定する処理負荷に対応できる計算能力と、目標とする遅延時間(1ミリ秒~4ミリ秒)を実現できるネットワーク性能を確認する必要があります。さらに、将来的な事業拡大に備えた拡張性と、既存のクラウドシステムやオンプレミス環境との互換性も評価ポイントです。
エッジデータセンターは分散型インフラであるため、複数拠点を効率的に管理できる運用体制を確保しなければなりません。24時間365日の監視体制に加え、各拠点の状況を一元的に把握できる統合管理プラットフォームが提供されているかを確認する必要があります。コスト面では、初期導入費用だけでなく、月額運用費、保守費用、将来の拡張コストまで含めた総所有コスト(TCO)で評価することが不可欠です。
特にエッジデータセンターでは、通信費削減やクラウド利用料削減などの間接効果も大きいため、ROI試算では、定量的効果と定性的効果の両面を考慮する必要があります。段階的導入により投資リスクを分散できるかどうかも核心的な検討項目です。
エッジデータセンターの導入は、一度に全面展開するのではなく、パイロット導入から始める段階的アプローチが推奨されます。まず特定の用途や地域で小規模に開始し、効果を検証してから本格展開に移ることで、技術的リスクと投資リスクの両方を軽減できます。ベンダー選定では、技術力だけでなく長期のパートナーシップを構築できるかも主要な判断基準となります。契約条件では、サービスレベル保証(SLA)、データセキュリティ、災害時の対応体制を明確に定めることが必要です。
また、導入効果を適切に評価するため、遅延時間短縮、コスト削減率、システム可用性などの具体的なKPIを事前に設定し、継続的な効果測定を行う体制を整備することが重要です。
エッジデータセンターは、5G・IoT・AI時代における企業競争力の源泉となるインフラです。従来の集中型処理では実現困難だった低遅延・高速処理を可能にし、新たなビジネス価値創出を支援します。市場規模も年率20%近い成長を続けており、今後数年間で企業のIT戦略における重要度はさらに高まるでしょう。ただし、導入にあたっては技術特性の理解、適切な配置、運用体制の整備が不可欠です。自社のビジネス要件と技術的制約を十分に検討し、段階的なアプローチによる導入を進めることで、エッジデータセンターの恩恵を最大限活用できます。デジタル変革を加速し、競争優位を築くための投資として、エッジデータセンターの活用を検討されることをおすすめいたします。
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