データセンター移行の3つの方法と失敗しない手順を解説

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課題解決のためのノウハウ

DXの推進により、多くの企業で現在利用中のデータセンターの課題が顕在化しています。「運用コストが年々増加している」「災害対策が不十分で不安」「老朽化したシステムの保守が困難」「電力効率が悪く環境負荷が気になる」といった悩みを抱える情報システム部門の方も多いのではないでしょうか。データセンター移行は有効な解決策ですが、いくつかの手法があり、適切な方法の選択が成功の鍵となります。方法選択を誤ると業務停止やデータ消失などの重大なリスクを招く可能性があります。本記事では、3つの移行方法の特徴と選択基準、実施手順からリスク対策まで、安全で確実な移行を実現するポイントをご紹介します。

データセンター移行とは?基礎知識とメリット・デメリット

既存の環境を新たな運用基盤に移転することで、コスト削減や運用効率化を実現するデータセンター移行について、その概要と企業にもたらす効果を解説します。システムの老朽化や災害リスクへの対応として、多くの企業が検討を進めている重要な経営判断の一つです。

データセンター移行の定義と必要性

データセンター移行とは、現在稼働しているサーバーやネットワーク機器、データなどのIT資産を別のデータセンター環境に移転させることを指します。単なる物理的な移転にとどまらず、システム環境の最適化やセキュリティ強化も含む包括的なプロジェクトとして位置づけられています。

企業のDX推進において、レガシーシステムの刷新は避けて通れない課題となっています。特に製造業では、老朽化した制御システムの保守部品確保が困難になり、システム停止リスクが高まっているケースが多く見られます。また、金融業界では厳格化するセキュリティ要件への対応として、最新の防御機能を備えたデータセンターへの移行が急務となっています。

さらに、企業の成長に伴うリソース不足の解消や、電力コスト上昇への対応、そして自然災害に対する事業継続性確保といった観点からも、データセンター移行の必要性が高まっています。リモートワークの浸透により、従来のオンプレミス環境では対応困難な柔軟性と拡張性が求められるようになったことも、移行を後押しする要因となっています。

データセンター移行が求められる背景

企業を取り巻く環境変化により、従来のデータセンター運用では対応困難な課題が表面化してきています。電力コストの上昇、専門技術者の確保、そして厳格化するセキュリティ要件への対応といった課題が企業の競争力に直結する問題となっています。さらに、リモートワークの浸透やクラウドサービスの普及により、柔軟性と拡張性を備えたIT基盤への転換が急務となっています。

技術面では、専門技術者の確保が困難なことが深刻な問題となっています。特に、COBOLやFORTRANといった古いプログラミング言語を扱える技術者の高齢化により、システム保守の継続性に不安を抱える企業が増加しています。また、セキュリティ要件の厳格化により、従来の防御策では対応困難なサイバー攻撃の増加も、移行を検討する大きな要因となっています。

運用面では、電力コストの継続的な上昇や、24時間365日の監視体制維持にかかる人的コストが企業の収益を圧迫する状況が生まれています。さらに、災害対策への投資や環境負荷軽減への取り組みも、従来の運用体制では限界があるという現実があります。

データセンター移行のメリットとデメリット

データセンター移行により、運用面、技術面、セキュリティ面で大きなメリットが期待できます。運用面では、電力効率の改善による大幅なコスト削減と、専門スタッフによる効率的な運用体制により、従来の従来の環境では困難だった最適化を実現できます。技術面では、冗長化設備による高い稼働率の実現と、専門監視による障害予防・迅速対応により、システムの安定性が大幅に向上します。セキュリティ面では、最新の多層防御システムと強化された物理的セキュリティにより、各種コンプライアンス要件への確実な対応が可能になります。

一方で、移行プロジェクトには注意すべき課題も存在します。移行時には一時的なシステム停止やデータ整合性確保の困難さ、セキュリティリスクの増大といった技術的リスクがあります。また、初期投資の負担や移行作業に伴う人的リソースの確保、予期しない技術的問題による工期延長といったコスト・期間面での課題もあるため、事前の綿密な計画策定と実績豊富なパートナーとの連携が不可欠となります。

データセンター移行の3つの方法と選び方

企業のシステム特性や要件に応じた最適な移行アプローチの選択が、プロジェクト成功の重要な要素となります。リフト&シフト、レプリケーション、クラウド移行の3つの手法について、それぞれの特徴と適用場面を詳しく解説します。

ハードウェアの物理移転(リフト&シフト)

既存のサーバーやネットワーク機器をそのまま新しいデータセンターに物理的に移設する方法です。システム構成を変更せずに移行できるため、アプリケーションの互換性問題や設定変更のリスクを最小限に抑えることができます。

この手法は製造業の制御システムや金融機関の基幹システムなど、システム変更が困難な環境で効果を発揮します。例えば、製造業の生産ライン制御システムのように長期間稼働し続けているシステムでは、システム変更による生産停止リスクを回避する必要があるため、リフト&シフトによる移行が選択されるケースが多く見られます。この手法により、最小限の計画停止で移行を完了させることが可能になります。

ただし、物理的な機器の移設に伴う輸送リスクや作業時のダウンタイムが避けられないため、慎重な輸送計画と十分な動作テスト時間の確保が大切となります。古いシステムや特殊な要件を持つシステムに最も適した手法といえるでしょう。

データ複製による移行(レプリケーション)

既存システムを稼働させながら、新環境にデータを複製・同期する方法です。段階的な移行が可能なため、業務への影響を最小限に抑えながらシステム更新を実現できます。

レプリケーション技術では、本番環境から移行先環境へのリアルタイムデータ同期により、最新の状態を常に維持します。ある小売業の事例では、全国200店舗のPOSシステムデータを段階的に移行し、店舗ごとの営業時間外に切り替えを実施することで、売上機会の損失を完全に回避できました。

この手法の利点は切り戻しが容易で安全性が高いことですが、データ同期の管理には高度な技術的ノウハウが必要となります。特に、トランザクション処理の多いシステムでは、同期ポイントの設計が移行成功の鍵となるため、データ整合性の確保には定期的な同期状況の監視と検証が欠かせません。

マイグレーションの詳細な手順について知りたい方は、「マイグレーションとは?メリットや手法、失敗しないためのポイントを解説」も併せてご覧ください。

クラウド・仮想環境への移行(P2V:Physical to Virtual)

物理サーバーから仮想環境やクラウドプラットフォームへの移行を行う方法です。ハードウェアへの依存性を排除し、柔軟な拡張性と高い可用性を実現できます。

P2V移行では、物理サーバーのOS環境をそのまま仮想マシンとして再現する技術を活用します。ある情報サービス業では、老朽化した物理サーバーを仮想環境に移行し、リソース使用効率の大幅な向上とともに、運用コストの大幅な削減を実現できました。

この手法により、ハードウェア依存からの脱却による柔軟性向上とリソースの動的配分による効率化が実現できます。また、仮想環境特有の機能により災害復旧能力も大幅に向上します。ただし、アプリケーションの仮想化対応確認や性能要件に応じた仮想リソース調整が必要となる場合があります。特に、仮想化によりライセンス体系が変更される場合があるため、事前にソフトウェアベンダーへの確認が重要です。

オンプレミスとクラウドの特性について詳しく知りたい方は、「オンプレミスとクラウドの違いとは?メリット・デメリットと移行の流れをチェック」をご参照ください。

移行方法の選択基準と比較

システムの性質、予算規模、そして移行後の運用方針により移行方法は異なります。適切な選択を行うための具体的な判断基準をご紹介します。

基幹システムの場合

安定性を重視してリフト&シフトまたはレプリケーションが適しており、特に金融機関の勘定系システムや製造業の生産管理システムでは実績豊富なリフト&シフトが選択されることが多い

情報系システムの場合

効率化を重視してクラウド移行が適しており、メールシステムやファイルサーバーなどでは運用コスト削減効果が期待できるP2V移行が有効

レガシーシステムの場合

互換性確保を最優先としてリフト&シフトが最も安全であり、古いOS環境やカスタマイズされたアプリケーションでは物理移行が推奨される


予算や期間の制約がある場合、短期移行にはリフト&シフトが適していますが、長期的なコスト削減を重視する場合はP2V移行による運用効率化が効果的です。また、ダウンタイムを最小化したい場合はレプリケーションが最適解となります。

データセンター移行の手順とリスク対策

成功確率を高めるためには、段階的なアプローチと全体的なリスク管理が欠かせません。実際の移行プロジェクトで実践されている手順とノウハウを解説します。

移行計画の策定と現状調査

プロジェクトの成功は詳細な現状分析から始まります。以下の3つのフェーズで段階的に進めることで、適切な移行戦略を策定できます。

システム構成調査

ハードウェア仕様、OS版数、アプリケーション一覧、ネットワーク構成の詳細な棚卸しを実施し、ドキュメント化されていない重要な設定も含めて現状を正確に把握します。

業務影響度分析

システムをクリティカル業務、重要業務、一般業務に分類し、売上直結システムや法的義務システムを最優先として移行優先順位を決定します。

移行スケジュール最適化

小売業の年末商戦、製造業の生産計画、金融業の決算期など業界特有の繁忙期を避け、関係部署との連携体制を構築した最適なタイミングを選択します。


長期間稼働しているシステムでは、運用中に追加された設定変更や独自のカスタマイズが文書化されていないケースが多く見られます。綿密な事前調査こそが安全な移行を実現する基盤となります。

リハーサルとテスト実施

本番移行前の入念なテストにより、想定外のトラブルを事前に発見・対処できます。段階的なテストアプローチを通じて、移行プロセスの精度を高めていきます。

単体テスト

個別システムの動作確認を実施し、基本機能の正常性を検証します。

結合テスト

システム間の連携動作を確認し、データ連携やインターフェースの整合性を検証します。

総合テスト

業務シナリオに基づく一連の処理を実行し、実運用に近い環境での動作を確認します。

性能テスト

平常時の2倍負荷での動作確認、システム限界値の測定、長時間稼働での安定性確認を実施します。


実データを活用した総合テストでは、過去の取引データやマスターデータを用いることで、データ変換処理の精度を大幅に向上させることができます。このようなテストにより、本番環境で発生する可能性のある問題を事前に特定・解決できます。

万が一の問題発生に備えて、確実な切り戻し手順の確立も不可欠です。切り戻し判断基準の明確化、作業手順の詳細化、そして関係者への手順共有を通じて、緊急時の迅速な対応を可能にします。また、緊急時の連絡体制や役割分担についても、この段階で確立しておくことが推奨されます。

本番移行の実施と監視

計画に基づく慎重な移行作業では、各工程の進捗状況をリアルタイムで監視し、問題発生時には迅速に対応できる体制が必要です。以下の項目について継続的な監視を実施します。

システム稼働状況の監視

CPU使用率、メモリ使用量、ディスクI/O使用率を5分間隔で自動監視し、システムリソースの健全性を確認します

ネットワーク状況の監視

通信速度、パケットロス率、レイテンシを測定し、データ転送の品質を保証して通信障害を早期発見します

アプリケーション動作の監視

レスポンス時間、エラー発生率、同時接続数を監視し、業務システムの正常性を確認して利用者への影響を最小化します


移行作業では、プロジェクトマネージャー、技術責任者、各システム担当者、ユーザー代表者による実行委員会を設置し、24時間体制での対応を実施します。移行完了後は即座にユーザー受け入れテストを実施し、問題発見時には事前策定した切り戻し手順で迅速に対応します。

移行時のリスクと対策方法

データセンター移行では様々なリスクが想定されるため、事前の対策準備が成功の鍵となります。主要なリスクとその対策方法をご紹介します。

データ消失・破損リスク

移行前、移行中、移行後の各段階で多重バックアップを取得し、万が一の場合の復旧手順を事前に確立します。完全バックアップ、増分バックアップ、差分バックアップを組み合わせてデータ保護を多重化します。

システム停止時間の延長リスク

段階的移行やホットスタンバイ環境を活用し、業務への影響を最小限に抑制します。レプリケーション技術により計画外のダウンタイムを回避できます。

セキュリティリスクの増大

移行作業者の権限管理と操作ログ取得、データ転送時の暗号化通信確保、物理輸送時の警備体制を確立し、機密データの保護を徹底します。

コンプライアンス要件違反リスク

金融庁のシステムリスク管理指針、医療情報システムの安全管理ガイドラインなど業界固有の規制要件を事前確認し、移行計画に反映させます。


これらのリスクを総合的に管理するため、リスク管理表の作成と定期的な見直し、エスカレーション手順の確立が不可欠です。

移行後の検証と最適化

移行完了後は継続的な監視により、システム性能や安定性を確認していきます。事前に設定したKPIに基づく定量的な評価を実施し、レスポンス時間、スループット、可用性の3つの観点から移行前との比較分析を行います。必要に応じてチューニングを実施し、システムの最適化を図ります。

ユーザー満足度調査では、操作性評価としてシステムレスポンスの改善度合いと新環境での使いやすさを測定し、機能評価として業務要件の充足度と追加要望を収集します。また、安定性評価では障害発生頻度と影響度を移行前と比較し、システムの信頼性向上を検証します。

移行プロジェクトの振り返りでは、成功要因と課題の分析、作業効率化のポイント、技術的な学びを文書化し、組織の資産として蓄積します。これらのナレッジは次回の移行プロジェクトで活用することで、組織のシステム移行能力の継続的な向上を図ることができます。

適切な方法選択と段階的アプローチでデータセンター移行を成功に導く

データセンター移行の成功には、システム特性に応じた適切な方法選択と段階的なアプローチが欠かせません。リフト&シフト、レプリケーション、そしてクラウド移行のそれぞれにメリットとデメリットがあるため、企業の要件や制約条件を十分に検討した上で最適な手法を選択することが重要です。また、詳細な現状分析、入念なテスト実施、そして包括的なリスク対策により、移行プロジェクトの成功確率を大幅に向上させることができます。専門的な知識と経験を持つパートナーとの連携により、安全で確実なデータセンター移行を実現し、企業の競争力強化につなげていくことが可能になるでしょう。

データセンター移行を成功に導くためには、移行先となるデータセンターの安全性と信頼性が重要な要素となります。STNetのデータセンター「Powerico(パワリコ)」は、自然災害リスクの低い香川県に立地し、データセンターファシリティスタンダードの「ティア4」に準拠した高い信頼性を実現しています。リフト&シフトによる物理移行、レプリケーションによる段階的移行、そしてクラウド環境との連携まで、あらゆる移行方法に対応可能な設備環境を整備しており、24時間365日の専門技術員による監視体制のもと、お客さまの移行プロジェクトを安全に支援いたします。データセンター移行をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください

この記事で紹介しているサービス

Powerico(パワリコ)

自然災害リスクの低い安全な立地と高信頼のファシリティ、多様な運用サービスで、お客さまのサーバーを安全に保管・運用します。