IT-BCPとは?自社のIT資産を守り事業継続を実現するポイントを解説

課題解決のためのノウハウ
近年、地震や台風などの自然災害、感染症拡大、サイバー攻撃といった多様なリスクに直面するなか、企業におけるBCP対策の重要性が高まっています。BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、企業が危機的状況に直面した際でも、事業を継続するための包括的な計画です。「地震などの災害時に重要なデータを守れるか不安がある」「緊急時の対応フローが整備されていない」といった課題を抱えていませんか?本記事では、BCP対策の基本から策定手順、効果的なデータ管理まで、実践的な知識を網羅的に解説します。企業の存続に関わるBCP対策について、ぜひご一読ください。
BCP対策として効果的なデータセンター選定のポイントについては、こちらの資料をご覧ください。
特にITシステムのBCP対策については、こちらの資料で詳しく解説しています。
BCP対策の本質と意義を理解するには、まず基本的な概念を把握することが欠かせません。この章では、BCPの定義から防災対策との違い、そして企業がBCP対策を行うべき理由について詳しく解説していきます。
BCP(Business Continuity Plan)は「事業継続計画」を意味し、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、企業の事業を継続するための計画です。単なる危機対応マニュアルではなく、中核事業の継続と早期復旧に焦点を当てた包括的な計画となります。重要業務の特定、目標復旧時間の設定、必要リソースの確保、対応手順の明確化などを含み、企業存続を左右する不可欠な経営戦略の一部といえるでしょう。
BCPの本質は「いかなる状況下でも、最低限の事業は継続し、可能な限り早く通常業務に復旧する」という点にあります。
BCP策定の主なメリットとして、3つの要素を挙げることができます。まず「緊急時に迅速な行動が可能になる」点です。事前に準備することで冷静な判断と最善の対応が可能になります。例えば、東日本大震災ではBCP策定企業の多くが1週間以内に業務を再開できました。次に「自社の基幹事業が明確になる」ことで、平時の経営戦略にも活かせます。経営資源の最適配分や事業の選択と集中に役立ちます。さらに「対外的な信頼性の向上」により、取引先からの評価が高まり、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。
防災対策が主に「人命の安全確保」と「物的被害の軽減」に重点を置くのに対し、BCP対策は「事業の継続性確保」を主目的としています。また、対象範囲も異なり、防災対策が自社内に限定されるのに対し、BCP対策はサプライチェーンも含めた包括的な視点で策定します。さらに、想定するリスクも異なり、BCP対策は感染症やサイバー攻撃など幅広いリスクを対象とします。両者は互いに補完し合う関係にあり、組み合わせることでより強靭な企業体制を構築できます。
IT関連のBCP対策について詳しくは、「IT-BCPとは?自社のIT資産を守り事業継続を実現するポイントを解説」をご参照ください。
企業がBCP対策を行う理由は、第一に従業員という最も重要な資産を守ることができるからです。緊急時の対応方法が明確になっていれば、混乱を防ぎ、人的被害を最小限に抑えられます。次に、迅速な事業復旧により経済的損失を抑制できます。システム障害などの復旧時間が長ければ長いほど、売上機会の損失や顧客信頼低下といった二次的被害が拡大します。さらに、顧客や取引先からの信頼獲得にもつながり、競争優位性を確保できます。近年ではサプライチェーンの強靭性が重視され、取引先選定時にBCP策定状況を評価項目に含める企業も増加しています。
BCP対策と災害復旧(DR)の違いについては、「BCPとDRの違いとは?緊急時に事業早期復旧を実現させるためのポイントを解説」で詳しく解説しています。
日本企業のBCP策定率は着実に向上しているものの、企業規模による格差が顕著です。内閣府の「令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によれば、大企業の策定率は76.4%(前回70.8%)、中堅企業は45.5%(前回40.2%)と増加傾向にあります。政府は平成17年からガイドラインを整備し、令和5年3月には改定版を公表するなど、普及促進に取り組んでいます。策定率向上の背景には近年の自然災害増加や新型コロナの影響がありますが、中小企業では「策定する人材がいない」「何から手をつければよいかわからない」といった課題が残っています。
参考:内閣府 令和6年版 防災白書|大企業と中堅企業のBCP策定状況
BCP対策を効果的に策定するためには、段階的かつ体系的なアプローチが不可欠です。この章では、対策チームの編成から具体的な対応手順の文書化、教育・訓練計画の立案まで、実践的な策定手順について解説していきます。
BCP対策の第一歩は、社内横断的な対策チームの編成です。経営層、人事、総務、IT、現場責任者など、各部門からのメンバーを揃え、多角的な視点からの検討を可能にします。特に経営層の参加は必須であり、トップダウンの権限付与がなければ実効性のあるBCPは策定できません。チームが発足したら、BCPの基本方針を経営層の承認のもと決定します。この方針には「想定する被害の程度」「目標復旧時間」「優先的に確保するリソース」などを含め、後続プロセスの指針とします。企業規模や業種によって最適なチーム構成は異なりますが、中小企業では代表者がリーダーとなり各部門責任者数名で編成するのが現実的です。
BCP対策で最初に行うべき重要なステップが、自社の中核業務(基幹事業)の選定です。全事業を「利益率」「顧客数」「市場シェア」「事業停止による損失額」などの観点から分析し、優先度を評価します。限られたリソースで迅速に復旧させるためには、明確な優先順位付けが必須です。例えば、製造業なら主力製品の生産ライン、小売業なら主要店舗や物流センター、IT企業なら基幹システムやデータベースなどが優先対象となるでしょう。選定した重要業務には、目標復旧時間(RTO:いつまでに業務再開すべきか)と目標復旧ポイント(RPO:どの時点のデータまで復旧させるか)を設定し、具体的な対策を検討していきます。
効果的なBCP対策を立案するには、自社が直面する可能性のあるリスクを特定し、その影響を分析することが欠かせません。リスクは「外的要因」(サイバー攻撃、感染症拡大、取引先倒産)、「内的要因」(従業員不祥事、システム障害)、「自然災害」(地震、台風、洪水)の3つに分類し、重要業務への影響を評価します。ハザードマップなどの公的資料も活用し、被害の程度と範囲、復旧に要する時間とコストを具体的にシミュレーションします。リスク分析では「発生可能性」と「影響度」の2軸で評価するマトリクス手法が一般的です。また、最悪のシナリオを想定することが重要であり、楽観的な見方ではなくワーストケースから対策を検討すべきです。
リスク分析と被害想定に基づき、事業継続戦略を策定します。人員、設備、システム、データ、資金などの必須リソースをどのように確保・代替するかの具体的な方針を含めましょう。例えば「代替オフィスの確保」「データバックアップ」「サプライヤーの複数化」「緊急時資金の準備」などが挙げられます。特に現代のビジネスではIT依存度が高いため、データ保護や代替システムの確保など、IT面での戦略が極めて重要です。戦略策定ではコストと効果のバランスを考慮し、重要度の高いリスクから優先的に対策を実施するアプローチが現実的です。また、自社だけで対応できない場合は、協力会社や業界団体、地域コミュニティなどとの連携も検討すると良いでしょう。
策定した事業継続戦略に基づき、緊急時の具体的な対応手順を文書化します。この手順書には「初動対応」「BCP発動基準」「指揮命令系統」「役割分担」「連絡体制」「復旧手順」などを明確に記載します。特に肝要なのは、誰が何をするのかを具体的に定義し、責任の所在を明確にすることです。緊急時には混乱が生じやすいため、「誰かがやるだろう」という曖昧な役割分担は避け、担当者と代行者を明確に指定しておきましょう。また、BCP発動の判断基準も重要です。「震度6以上の地震発生時」「1時間以上のサーバーダウン」など、具体的な基準を設定しておくと良いでしょう。さらに、電話、メール、SNS、対面など、連絡手段の多重化も忘れてはなりません。
BCP対策は全従業員に周知し、定期的な訓練を通じて実効性を高めることが欠かせません。教育・訓練計画には基本的な考え方の共有、部門別の役割理解、緊急時対応手順の習熟などを目的とした研修やワークショップを含めると効果的です。訓練には「避難訓練」「安否確認訓練」「データ復旧訓練」「代替拠点への移行訓練」などがあり、実際の緊急時を想定したリアルな状況で行うことが効果的です。例えば「事前通知なしで実施」「夜間や休日に実施」「一部システムや設備を実際に停止」など工夫すると、より実践的になります。訓練後は必ず振り返りを行い、発見された課題をBCP改善に活かすPDCAサイクルを回していきましょう。
現代のビジネスにおいて、データは企業の生命線とも言える重要な資産です。この章では、BCP対策における効果的なデータ管理の方法について解説します。
データ喪失は、企業にとって深刻な影響をもたらす可能性があります。顧客データ、財務情報、製品設計図など、核心的な情報が失われれば事業継続が困難になることも少なくありません。主な原因は「ハードウェア障害」「人為的ミス」「マルウェア感染」「自然災害による物理的損傷」などですが、これらのリスクへの備えが不十分な企業は依然として多いのが現状です。例えば「バックアップを取っていなかった」「バックアップが同じ場所に保管され同時被災した」などのケースは珍しくありません。データ喪失による影響を最小限に抑えるには、重要度に応じたデータ分類と適切なバックアップ体制が不可欠です。特に「顧客情報」「財務データ」「知的財産」などの重要データは、より高頻度かつ堅牢なバックアップが必要となります。
ランサムウェア対策については、「ランサムウェア感染したらどうする?企業が取るべき緊急対応を徹底解説」で詳しく解説しています。
効果的なデータバックアップ戦略を立てるには、「RPO(目標復旧ポイント)」と「RTO(目標復旧時間)」の指標が鍵となります。これらの要件に基づき、「フルバックアップ」(全データをコピー)、「増分バックアップ」(前回バックアップ以降の変更のみコピー)、「差分バックアップ」(最初のフルバックアップ以降の変更をコピー)などの方式を適切に選定します。「3-2-1ルール」(3つのコピーを2種類の媒体に保存し、1つは遠隔地に保管)などの原則を取り入れることで、より強固な体制を構築できます。バックアップデータの定期的な復元テストも欠かせません。いざというときに復元できなければ意味がないため、定期的にテスト復元を行い、バックアップの実効性を確認しておきましょう。
BCP対策については、「BCPとは?企業の災害対策に重要なデータセンター選び」で詳しく解説しています。
バックアップデータの安全な保管先として、またディザスタリカバリ(災害復旧)のためのバックアップサイトとして、データセンターの活用は効果的なBCP対策のひとつです。特に自社内でのデータ保管だけでは自然災害などのリスクに十分対応できないケースが多いため、専門的な設備と管理体制を備えたデータセンターの利用が推奨されています。
BCP対策の観点からデータセンターを選定する際は、以下の重要なポイントを押さえる必要があります。第一に「立地条件」です。地震、洪水、津波などの自然災害リスクが低い場所にあるか確認します。ハザードマップや過去の災害履歴も参考にしましょう。次に「設備の冗長性」が重要です。電源(複数の電力会社からの受電、自家発電設備)、空調、ネットワーク(複数回線の確保)などが二重化されており、一部故障しても全体システムが継続できる構造か確認します。
また「セキュリティレベル」も重視すべきです。物理的セキュリティ(生体認証による入退室管理、監視カメラ)と論理的セキュリティ(ファイアウォール、不正侵入検知)の両面が整備されているか評価します。さらに「運用体制」も見逃せません。24時間365日の有人監視体制や明確な障害対応手順、定期的な訓練実施などを確認しましょう。これらの要素を総合的に評価し、自社のリスク許容度と予算に合ったデータセンターを選定することがBCP対策の成功につながります。
BCP対策として効果的なデータセンター選定のポイントについては、こちらの資料をご覧ください。
IT-BCPとは、IT資産やシステムに特化したBCP対策です。この策定プロセスでは、まず重要なITシステムを特定し、システムごとのRTOとRPOを定義します。続いてリスク分析として、サーバー故障やネットワーク遮断、サイバー攻撃、電力供給停止などのリスクを洗い出し、それぞれの発生可能性と影響度を評価します。
その後の対策立案では、データバックアップやシステム冗長化、代替サイトの準備などを計画していきます。基幹システムにはリアルタイムデータ同期やホットスタンバイ環境の構築を検討し、重要度の低いシステムには定期バックアップと手動復旧手順の整備など、システムの重要度に応じた対策を検討します。また、定期的な訓練と見直しも欠かせません。システム環境は常に変化するため、新システム導入や構成変更があれば、IT-BCPも適宜更新する必要があります。
BCP対策は、企業が様々なリスクに直面した際にも事業を継続するための重要な経営戦略です。本記事では、BCPの基本的な定義から防災対策との違い、そして具体的な策定手順まで解説しました。効果的なBCP対策の策定には、対策チームの編成、重要業務の選定、リスク分析、事業継続戦略の策定、具体的な対応手順の文書化、そして教育・訓練計画の立案という段階的なプロセスが必要です。
特に現代のデジタル化されたビジネス環境においては、データ管理が極めて価値が高いものとなっており、適切なバックアップ戦略の策定やデータセンターの活用が不可欠となっています。データは企業の重要な資産であり、その喪失は事業継続に大きな影響を与えます。「3-2-1ルール」に基づくバックアップ体制の構築や、災害リスクの低い立地にあるデータセンターの活用など、データを守るための対策は最優先で検討すべき事項です。
STNetのデータセンター「Powerico(パワリコ)」は、過去100年間で震度6以上の地震が発生していない立地条件に位置する、災害に強いデータセンターです。24時間365日の専門技術員による監視体制のもと、高品質なサービスを提供しており、お客さまの大切なデータを守ります。BCP対策において頼れるパートナーとして、ぜひSTNetにご相談ください。