企業に必要なセキュリティ対策の基本と実践のポイント

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課題解決のためのノウハウ

近年、企業活動のデジタル化が急速に進む中、サイバー攻撃による被害が深刻化しています。ランサムウェアや標的型攻撃、情報漏洩など、企業規模を問わず様々な脅威にさらされ、セキュリティ対策の不備は金銭的損失だけでなく、社会的信用失墜や法的責任を招く可能性があります。しかし、多くの企業では「何から始めればよいかわからない」「限られた予算で効果的な対策を講じたい」といった課題を抱えているのが現状です。本記事では、企業が直面するセキュリティリスクの実態から、基本的な対策手法、企業規模に応じた現実的なアプローチまで、現代企業に求められるセキュリティ対策を解説します。

企業が直面するセキュリティリスクと対策の必要性

現代の企業を取り巻くサイバー脅威の実態と、セキュリティ対策を怠った場合の深刻な影響について解説します。近年のデジタル化により企業のIT依存度が高まる中、サイバー攻撃は巧妙化し、その影響範囲も拡大し続けています。

企業を狙う主要なサイバー攻撃の種類

サイバー攻撃の手法は年々巧妙化しており、企業が把握すべき主要な脅威が存在しています。攻撃者は常に新しい手法を開発し、企業の隙を狙って侵入を試みています。

ランサムウェア攻撃

企業のシステムやファイルを暗号化して使用不能にし、復旧と引き換えに身代金を要求する攻撃です。復旧作業には数週間から数ヶ月を要するケースも珍しくありません。

標的型攻撃メール

取引先企業や公的機関を装った精巧な偽装メールにより、従業員が気づかずに機密情報を漏洩させてしまう攻撃です。受信者の業務内容を詳細に調査して作成されます。

サプライチェーン攻撃

直接攻撃が困難な大企業に対し、セキュリティが比較的甘い取引先企業を足がかりとして侵入を図る手法です。企業間のネットワーク接続が狙われます。


これらの攻撃は単独ではなく組み合わせて実行されることも多く、包括的な対策が欠かせません。

セキュリティ対策を怠った場合の企業への影響

セキュリティインシデントが発生した場合、企業が受ける損害は多岐にわたり、その影響は長期間にわたって続きます。

直接的な金銭被害として、システム復旧費用、データ復旧費用、調査費用、賠償金などが発生します。中小企業においても数千万円規模の損害となるケースが報告されており、企業規模によっては事業存続に関わる深刻な問題となります。また、営業停止期間中の機会損失も無視できない要素です。

さらに深刻なのは社会的信用の失墜です。顧客情報の流出や機密データの漏洩により、既存顧客からの信頼を失い、取引先との関係悪化を招きます。新規顧客の獲得も困難となり、ブランドイメージの回復には長期間を要します。特に個人情報を扱う業種では、一度の事故が企業の存続を脅かす事態に発展する可能性があります。

法的責任として、個人情報保護法違反による行政処分や刑事処分のリスクも存在します。近年の法改正により、個人情報の適切な管理に対する企業の責任はより厳格になっており、違反時の罰則も強化されています。株主代表訴訟や集団訴訟のリスクも考慮すべき要素です。

企業規模を問わず狙われる現代の脅威環境

現代のサイバー攻撃は、企業規模や業種を問わず無差別に行われる傾向が強まっています。攻撃者は効率よく複数の企業を狙うため、セキュリティ対策が手薄な組織を優先的に狙い撃ちする手法を取っています。

自動化されたスキャンツールにより、インターネット上の脆弱なシステムが日夜探索されており、基本的なセキュリティ対策を怠った企業は短期間で発見される危険性があります。攻撃者にとって、企業の規模よりもアクセスの容易さが優先される傾向にあります。

大企業への侵入ルートとして、関連企業や取引先を経由する攻撃手法も増加しています。企業間のネットワーク接続やデータ共有システムが攻撃の入口となるリスクが高まっており、一社のセキュリティ不備が関連企業全体に影響を及ぼす可能性があります。

こうした脅威環境において、全ての企業が当事者意識を持ったセキュリティ対策の実施が求められています。「自社は狙われない」という楽観的な考えは危険であり、業種や規模に関わらず適切な対策を講じることが事業継続の前提条件となっています。

企業が実践すべき基本的なセキュリティ対策

技術面、運用面の両方から、企業が確実に実装すべき基本対策について具体的な実施方法を解説します。効果的なセキュリティ対策は、単一の技術に依存するのではなく、複数の防御層を組み合わせた多層防御の考え方が欠かせません。

ソフトウェア・システム面の対策

システムレベルでの防御基盤として、複数の技術的対策を組み合わせた多層防御が効果的です。各対策は独立して機能するだけでなく、相互に補完し合うことで強固なセキュリティ体制を構築します。

ウイルス対策ソフトの適切な運用は、最も基本的かつ重要な対策です。リアルタイム監視機能を有効にし、定義ファイルの自動更新を設定することが基本となります。また、スケジュールスキャンを設定し、システム全体の定期的な検査を実施します。クラウド型のウイルス対策サービスを活用することで、最新の脅威情報に即座に対応できる環境を構築できます。

OSおよびソフトウェアの定期アップデートでは、セキュリティパッチの適用を最優先に実施します。検証環境での事前テストを経て本番環境へ展開する手順を確立し、業務への影響を最小限に抑えながら迅速な対応を実現します。自動更新機能を活用する場合は、重要度に応じて段階的な適用スケジュールを設定することが推奨されます。

UTMについて詳しく知りたい方は、「UTMとは?企業のセキュリティ強化に不可欠な統合脅威管理をわかりやすく解説」もご覧ください。

アカウント・アクセス管理の強化

認証システムの強化により、不正アクセスのリスクを大幅に軽減できます。アカウント管理は、外部からの侵入だけでなく、内部不正の防止にも効果的な対策です。

強固なパスワードポリシーの実装

最低12文字以上の複雑な文字列を要求し、英数字と記号の組み合わせで定期的な変更を義務化します。過去のパスワードの再利用も禁止します。

多要素認証(MFA)の導入

パスワード漏洩時でも二次認証で侵入を防ぐことができます。SMS認証、アプリ認証、ハードウェアトークンなど複数の方式を組み合わせます。

適切なユーザー権限設定

最小権限の原則に基づき、業務上必要最小限のアクセス権限のみを付与します。定期的な権限見直しと退職者アカウントの24時間以内無効化が重要です。


段階的な認証強化により、システムへの不正侵入リスクを大幅に軽減できます。

組織・運用面での対策

技術的対策と並行して、組織全体でのセキュリティ意識向上が不可欠となります。人的要因によるセキュリティインシデントの割合は高く、従業員教育と組織的な取り組みが重要な役割を果たします。

情報セキュリティポリシーの策定

全従業員が理解しやすい具体的なルールを明文化し、パスワード管理やメール利用、USB取り扱いなどの行動指針を策定します。違反時の処分も明確に規定することが重要です。

従業員への定期的なセキュリティ教育

最新の脅威動向を含めた実践的な内容で年2回以上実施します。模擬フィッシングメール訓練や情報漏洩シミュレーションなど体験型プログラムが効果的です。

インシデント対応計画の整備

発生時の連絡体制、初動対応手順、復旧手順を整備し、定期的な訓練により実効性を確保します。平時からの準備が被害最小化の鍵となります。


組織的な取り組みにより、技術的対策だけでは防げない人的リスクを軽減できます。

セキュリティ教育の実施方法について詳しくは、「情報セキュリティ3要素とは?安全性を高めるうえで知っておきたいこと」もご参考ください。

企業規模別・業種別のセキュリティ対策のポイント

企業の規模や業種特性に応じた現実的なアプローチにより、効果的なセキュリティ対策の実現方法を解説します。限られたリソースの中で最大の効果を得るためには、企業の実情に合わせてカスタマイズされた対策が必要です。

中小企業向けの現実的な対策アプローチ

限られたリソースの中で最大の効果を得るため、優先度を明確にし、順を追った対策の実施が求められます。中小企業では、大企業と同様に幅広いセキュリティ対策を一度に導入することは困難であるため、段階的なアプローチが成功の鍵となります。

クラウドベースのセキュリティサービス活用

高額な機器投資を回避しながら高度な防御機能を利用できます。月額料金制により予算の平準化と最新技術の活用を両立できます。

外部セキュリティサービスの活用

専門知識不足を補完し、24時間365日の監視体制を低コストで実現可能です。SOC(Security Operation Center)サービスの活用により専門技術者の継続的な監視と迅速な対応を実現できます。

国や自治体の支援制度活用

IT導入補助金やIPA(情報処理推進機構)の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」などにより、導入費用の負担軽減を図れます。


段階的なアプローチにより、無理のない範囲でセキュリティレベルを向上できます。

IT導入補助金の活用方法について詳しくは、「IT導入補助金制度で中小企業のIT投資を支援!申請方法やメリットを解説」をご確認ください。

大企業向けの包括的対策

大規模組織では、統合的なセキュリティ管理による効率的な運用が求められます。複数の拠点、多様なシステム、大量のユーザーを抱える大企業では、スケーラビリティと管理効率を考慮した包括的なアプローチが求められます。

統合セキュリティ管理システム(SIEM)の導入

複数のセキュリティツールからの情報を一元管理し、ログ集約・分析、リアルタイム監視、インシデント管理を統合的に実現します。

セキュリティ専門チーム(SOC)の設置

内製化または外部委託により高度な分析能力、24時間365日の監視体制を確保し、継続的なセキュリティ対策を図ります。

サプライチェーン全体のセキュリティ確保

取引先企業のセキュリティレベル評価と改善支援を実施し、定期的な監査により、関連企業全体のセキュリティレベル向上が期待できます。


包括的なアプローチにより、大規模環境でも効率的なセキュリティ運用を実現できます。

SOCの構築について詳しくは、「SOC(Security Operation Center)とは?構築・運用のポイントと企業のセキュリティ戦略」もご覧ください。

業種特有のセキュリティ要件と導入のコツ

各業種の特性に応じた専門的なセキュリティ対策が必要となります。業種ごとに取り扱う情報の性質、規制要件、リスクレベルが異なるため、画一的な対策では不十分です。

製造業

OT(Operational Technology)とITシステムの統合セキュリティ対策により生産ライン停止リスクを最小化します。製造ラインの24時間365日稼働を維持しながら、生産システムと外部ネットワークを分離することが重要です。ネットワーク分離により、インターネット経由のサイバー攻撃から生産設備を物理的に守り、万一の攻撃を受けても製造ラインの稼働を継続できます。

金融業界

厳格な暗号化基準の遵守と金融庁ガイドラインへの準拠が必須要件となります。データ暗号化、アクセスログ管理、定期的な脆弱性診断が求められます。

医療・介護分野

患者データを適切に取り扱うプロセスの確立が不可欠です。個人情報保護法医療分野ガイドライン遵守とアクセス権限の厳格な管理が必要です。


業種特性を理解して導入ことにより、効果的なセキュリティ対策を実現できます。持続可能なセキュリティ対策の実現には、段階的な導入計画と継続的な改善が重要です。従業員の理解と協力を得ながら進めることが成功の鍵となります。

多層防御による包括的なセキュリティ対策の実現を

企業のセキュリティ対策は、もはや「あれば良い」ものではなく、事業継続に不可欠な基盤となっています。サイバー攻撃の巧妙化と頻発化により、企業規模を問わず深刻な被害リスクに直面している現状において、体系的かつ継続した対策実施が求められます。基本的な技術対策から組織全体の取り組みまで、多層防御の考え方に基づいた幅広いアプローチが効果的です。

中小企業では限られたリソースの中で優先度を明確にした現実的な対策を、大企業では統合的な管理による効率的な運用を目指すことが重要といえるでしょう。2025年以降も進化し続ける脅威に対応するため、最新動向の把握と継続的な改善により、強固なセキュリティ基盤の構築を実現していきましょう。

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