サイバー攻撃とは?
目的・種類・事例から対策までわかりやすく解説

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年々巧妙化・深刻化するサイバー攻撃の脅威。企業のデジタル環境が拡大するなか、サイバー攻撃は企業の存続にも関わる重大なリスクとなっています。情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威2025」でもランサム攻撃による被害の脅威と、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃の脅威が3 年連続で1位と2位に選出されるなど、その対策は喫緊の課題といえます。本記事では、情報システム部門として知っておくべき基礎知識から具体的な対策まで、実務的な観点で解説します。

参照:情報セキュリティ10大脅威2025|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

サイバー攻撃とは

インターネットの普及とデジタル化の加速により、企業は様々なサイバー攻撃のリスクにさらされています。ここでは、サイバー攻撃の基本的な概念から、その仕組みやリスクまでを解説します。

サイバー攻撃の基本的な定義

サイバー攻撃とは、ネットワークを通じて企業や個人のシステムに対して行われる不正アクセスや攻撃行為を指します。その形態は多岐にわたり、年々巧妙化が進んでいます。最も一般的なのは、企業の機密情報や個人情報を標的としたデータの改ざんや窃取です。また近年では、システムを人質に取って復旧と引き換えに金銭を要求するケースや、従業員による意図的な情報持ち出しなども後を絶たない状況にあります。

サイバー攻撃のメカニズム

一般的なサイバー攻撃は、以下のような段階を経て実行されます。

  • 偵察フェーズ
    標的組織の情報収集や脆弱性の探索を行います。企業のWebサイトやSNSから情報を収集し、システムの弱点を特定します。これらの情報は後の攻撃計画の立案に利用される傾向があります。
  • 初期侵入
    マルウェアの感染やアカウントの搾取を行います。メール添付ファイル、Webサイト、USB機器などを経路として使用して、ネットワークへの足がかりを作ります。ソーシャルエンジニアリングを併用して効果を高めることも少なくありません。
  • 基盤構築
    バックドアの設置や権限の拡大を行います。 長期的な活動のための足場を確保し、より高度な権限を取得します。この段階では、正規のユーザーやシステム管理者の権限を利用して活動範囲を広げます。
  • 目的の実行
    データ窃取や破壊活動の実施を行います。 最終目的に応じた攻撃を実行し、証拠隠滅を行います。この段階で初めて攻撃の真の意図が明らかになることが多く、発見が遅れる一因となっています。

デジタル化に伴うリスクの増大

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、サイバー攻撃のリスクは急速に拡大しています。特にテレワークの普及により、社内システムへの外部からのアクセスが日常的になったことで、新たな脆弱性が生まれています。また、クラウドサービスの活用やIoTデバイスの導入により、管理すべきセキュリティの範囲は従来の社内システムから大きく広がっています。さらに、取引先とのデータ連携の増加に伴い、サプライチェーン全体でのセキュリティ確保が主な課題となっているといえるでしょう。

最近のサイバー攻撃の動向

サイバー攻撃は年々進化し、その手法も巧妙化しています。特に近年は、AIを活用した高度な攻撃や、サプライチェーンの弱点を突く攻撃が増加しています。ここでは、最新の動向と今後の予測について解説します。

日本国内におけるサイバー攻撃の現状

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「NICTER観測レポート2024」によると、2023年に観測されたサイバー攻撃関連の通信は、1IPアドレスあたりの年間総観測パケット数が約226万パケットでした。2022年の約183万パケットから約23.5%増加しており、サイバー攻撃の増加傾向が続いていることがわかります。また、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の「サイバーセキュリティ2024」によると、2023年には、国家によるサイバー攻撃の巧妙化・高度化、サプライチェーンリスクやランサムウェアを通じた政府機関や重要インフラ企業への攻撃の増加、ゼロデイ攻撃や生成AIの普及に伴うリスクなど、新たな脅威が増加しました。これらの情報から、サイバー攻撃の手法はますます多様化・巧妙化しており、企業や組織は、最新の脅威情報に基づいた対策を講じる必要があることが分かります。

参照:NICTER観測レポート2024|国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
   サイバーセキュリティ2024|内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)

最新の攻撃手法とその特徴

現在確認されている主な攻撃の特徴について説明します。

  • AI活用型攻撃
    機械学習を用いてセキュリティ対策を回避し、より高度な偽装を実現します。従来のパターンマッチングによる検知を巧みにすり抜け、異常な挙動の検出も困難になっていることが特徴です。
  • サプライチェーンを狙った高度な攻撃
    取引先システムの脆弱性を突き、そこを踏み台に本命の組織へ侵入します。大企業と取引のある中小企業が標的となるケースが増加し、セキュリティの弱い部分から侵入するという手法が広がっている傾向にあります。
  • ゼロデイ攻撃の増加
    未知の脆弱性を突く攻撃が増加しています。開発元のベンダーも把握していない脆弱性を悪用するため、対策が確立される前に被害が拡大するリスクが高まっています。

今後の予測と対策の方向性

サイバー攻撃は今後さらに高度化が進むと予測されています。特にAI技術の発展により、攻撃者側の自動化・効率化が進む一方、防御側でもAIを活用した対策の高度化が進むと考えられます。このような状況を踏まえ、従来の境界防御だけでなく、ゼロトラストセキュリティの考え方が注目されています。すべてのアクセスを信頼せず、常時検証を行う新しいセキュリティモデルへの移行が、今後の主要な対策方針となるでしょう。

サイバー攻撃の最新動向については、以下の資料で詳しく説明しています。

サイバー攻撃の対象者と目的

サイバー攻撃は様々な目的で、多様な対象に対して行われます。攻撃対象となる組織の特徴や、攻撃者の目的を理解することは、効果的な対策を講じる上で欠かせません。

サイバー攻撃の対象者

サイバー攻撃の標的となる組織には、規模や業種によって特徴的なパターンが見られます。大企業では知的財産や顧客情報の窃取を目的とした標的型攻撃が多く、中小企業ではランサムウェアによる金銭詐取が多発しています。特に重要インフラを担う組織や金融機関は、その社会的影響力の大きさから標的にされやすい傾向があります。

特に狙われやすい組織の特徴として、以下が挙げられます。

  • セキュリティ投資が十分でない組織
    基本的な対策の不備を狙われやすいです。特に中小企業では予算や人員の制約からセキュリティ対策が後回しになりがちであり、攻撃者にとって容易な標的となっています。
  • 取引先に大企業を持つ中小企業
    大企業への攻撃の踏み台として標的になります。直接攻撃が困難な大企業に対し、セキュリティ対策が比較的脆弱な取引先を経由した侵入経路が狙われることが増えています。
  • 機密性の高い情報を保有する組織
    研究開発部門や医療機関などが該当します。知的財産や個人の機微情報は高い価値を持つため、情報窃取を目的とした攻撃の対象となりやすくなっています。

サイバー攻撃の目的

サイバー攻撃の目的は、大きく以下の4つに分類されます。

  • 金銭目的の攻撃
    ランサムウェアによる身代金要求や不正送金が代表的です。暗号資産の不正採掘も増加しており、被害者のコンピュータリソースを無断で利用して利益を得るという新たな手法も広がっています。近年は犯罪グループの組織化が進み、技術的障壁が低下したことで、攻撃の規模と頻度が著しく増加しています。
  • 機密情報の窃取
    企業の知的財産や顧客の個人情報を窃取し、闇市場での販売や競合他社への売却を目的としています。産業スパイ活動の一環として実施されるケースも多く、長期間にわたり検知されずに情報が流出するリスクがあります。特に製造業や研究開発分野では、長年の投資で構築された知的財産が侵害されることで、競争優位性が著しく損なわれる可能性も考えられます。
  • システム破壊・業務妨害
    DDoS攻撃やデータの破壊により業務を停止させ、企業活動を妨害します。競合他社の業績低下を狙った経済的な動機による攻撃や、重要インフラを標的とした破壊工作など、直接的な損害を与えることを目的としています。こうした攻撃は事業継続に対する直接的な脅威となり、経済的損失が甚大になる可能性があります。
  • 社会的・政治的主張(ハクティビズム)
    企業のWebサイト改ざんや内部情報の暴露により、組織の信用失墜や主張の表明を図ります。経済的利益ではなく、イデオロギーや政治的メッセージの発信が主な目的であり、社会的な影響力のある企業や公的機関が標的となることが多いです。活動家グループによる組織的な攻撃も特徴で、ブランドイメージやレピュテーションへの打撃が大きな問題となる場合があります。

サイバー攻撃の種類と特徴

サイバー攻撃には多様な手法があり、それぞれ固有の特徴や対策が必要です。ここでは、代表的な攻撃手法について、技術的な観点を含めて詳しく解説します。

システムを直接攻撃する手法

システムを直接標的とする攻撃手法の中で、最も警戒すべきなのがマルウェアを使用した攻撃です。マルウェアとは「Malicious Software(悪意のあるソフトウェア)」の略称で、コンピュータに害を及ぼす目的で作成された不正プログラムの総称です。現在、特に警戒が必要な攻撃には以下のようなものがあります。

  • ランサムウェア
    システムやデータを暗号化し、復号と引き換えに身代金を要求します。バックアップデータまでも暗号化する高度な亜種も出現しており、企業活動の長期停止や多額の金銭的損失をもたらす深刻な脅威となっています。
  • Emotet
    高度な偽装機能を持つマルウェアです。メールの返信スレッドに割り込み、正規の業務会話を装って感染を広げる手法は、従来の訓練では見分けることが困難であり、組織全体に急速に拡散するリスクがあります。
  • ゼロデイ攻撃
    修正プログラムが提供される前の脆弱性を悪用します。対策が間に合わないため、被害が拡大しやすく、特に重要システムや広く利用されているソフトウェアの未知の脆弱性が狙われる傾向があります。

ネットワークを介した攻撃

企業のネットワーク環境を標的とした攻撃は、事業活動に重大な影響を及ぼす可能性があります。特に近年はリモートワークの普及により、従来の社内ネットワーク境界が曖昧になったことで新たな脆弱性が生じています。

  • VPNへの攻撃
    テレワーク環境のリモートアクセスの脆弱性を突き、社内システムへ侵入します。認証情報の窃取や、パッチ未適用の脆弱性を悪用した侵入が増加しており、外部からの接続全てに対する厳格な管理が求められています。
  • DDoS攻撃
    大量のアクセスでサービスを機能停止に追い込む、複数の攻撃元から行われる組織的な攻撃です。クラウドサービスの普及により攻撃の規模は拡大し、従来の対策では防ぎきれない大規模な攻撃が発生するリスクが高まっています。
  • Webアプリケーション攻撃
    SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、Webサイトの脆弱性を悪用します。オンラインサービスの拡大に伴い、Webアプリケーションの脆弱性を突く攻撃は増加傾向にあり、顧客情報の漏洩などの深刻な被害をもたらす可能性があります。

人間の心理を突く攻撃

技術的な対策では防ぎきれない、人間の心理や行動の特性を利用する攻撃です。これらの攻撃は最新のセキュリティ技術をすり抜け、直接的に人間の判断ミスを誘発するため、技術的対策と人的対策の両面からの防御が必要です。

  • ビジネスメール詐欺
    取引先や経営者になりすまして送金を指示し、急ぎの取引や権威を利用して心理的なプレッシャーをかけます。実在する組織や人物の情報を巧みに利用するため、通常のフィルタリングでは検出が困難であり、組織的な確認プロセスの徹底が被害防止の鍵となります。
  • フィッシング
    実在する企業や公的機関を装い、IDやパスワードを詐取します。メールやSMS、偽サイトなど様々な手段が用いられ、正規のサービスとの見分けが困難になるほど精巧な偽装が行われるケースが増えています。
  • ソーシャルエンジニアリング
    電話や対面での巧みな会話により情報を搾取します。人間関係や信頼関係を悪用して情報を引き出す手法は、純粋に技術的な対策だけでは防止が難しく、全従業員への継続的な教育が必要となります。

内部からの攻撃

正規のアクセス権限を持つ者による攻撃は、検知や防御が特に困難です。外部からの攻撃と比較して発見が遅れることが多く、被害の規模も大きくなる傾向があります。

  • 情報の持ち出し
    退職者や現職社員による機密情報や顧客情報の外部への持ち出しです。競合他社への転職や独立を目的として行われるケースが多く、長期間にわたり発覚しないことで、知的財産や競争優位性の喪失につながるリスクがあります。
  • 特権の悪用
    システム管理者など特権アカウント保持者による不正アクセスや情報窃取です。高度な権限を持つユーザーによる内部からの攻撃は、通常の監視体制では検知が困難であり、特権アカウントに対する厳格な管理と監視が必須となります。

ランサムウェアによる被害とその対策について、詳しくは「ランサムウェアの感染経路とは?被害に遭わないために知っておきたい対策のポイント」をご覧ください。

実際のサイバー攻撃被害事例(2024年)

サイバー攻撃による被害は、業種や規模を問わず多くの企業で発生しています。ここでは、実際の被害事例を基に、攻撃の実態と教訓を解説します。

1.ランサムウェア攻撃によるサービス停止

  • 攻撃の経緯
    メディア・出版大手のA社は2024年6月にランサムウェア攻撃を受けました。攻撃者は、フィッシングメールを通じて従業員の認証情報を詐取し、ネットワークに侵入してサーバーを暗号化しました。
  • 被害の内容
    動画配信サービスを含む複数のプラットフォームサービスが停止し、出版業務に遅延が発生しました。社員や取引先、利用者の個人情報が25万件以上流出し、SNSでの情報拡散によりスパムメールなどの二次被害も発生しました。
  • 教訓となる点
    従業員教育の価値と、ゼロトラストセキュリティの導入、全社的な情報セキュリティポリシーの見直しが必要であることが明らかになりました。ランサムウェア被害は復旧に多大な時間とコストを要するため、事前対策の有効性が再認識されました。

2.DDoS攻撃によるウェブサイト障害

  • 攻撃の経緯
    複数の教育機関と一般企業のB社がDDoS攻撃を受けました。攻撃者は中学生2人で、海外の攻撃代行サービスを利用して、大量のデータを送りつけウェブサイトを機能停止させました。
  • 被害の内容
    攻撃を受けたウェブサイトが一時的に閲覧不可能になり、企業は信頼性を損ない経済的な損害を被りました。また、若年層による攻撃の増加が社会問題として浮上し、サイバーセキュリティ教育の不足が明らかになりました。
  • 教訓となる点
    企業側のDDoS防御サービスの導入やリアルタイム監視体制の整備が必要であることが示されました。同時に、サイバー攻撃が犯罪であることを社会全体で啓発し、若年層へのセキュリティ教育を強化することの必要性が浮き彫りになりました。

3.委託先でのランサムウェア被害

  • 攻撃の経緯
    保険業界大手のC社の業務委託先である税理士法人と損害保険鑑定会社が相次いでランサムウェア攻撃を受けました。攻撃者は委託先システムに侵入し、データを暗号化して身代金を要求しました。
  • 被害の内容
    保険契約者や取引先、従業員など約13万5000件以上の個人情報が流出した可能性があります。保険証券番号や損害査定関連書類なども影響を受け、顧客や取引先との信頼関係にダメージを与えました。
  • 教訓となる点
    委託先とのセキュリティ基準統一や定期的な監査の実施、サプライチェーン全体のセキュリティ強化の必要性が示されました。自社の対策だけでなく、委託先を含めた包括的なリスク管理体制を構築することが再発防止と信頼回復につながることが明確になりました。

4.不正アクセスによる情報流出

  • 攻撃の経緯
    情報処理サービス企業のD社は2024年5月に不正アクセスを受けました。攻撃者はVPNの脆弱性を突いてネットワークに侵入し、受託業務で取り扱われていたデータを窃取しました。
  • 被害の内容
    地方自治体、商工会議所、銀行、クレジットカード会社など複数の委託元から預かっていた約150万件の顧客情報が流出しました。6月には攻撃者グループがリークサイトに情報を公開し、D社のセキュリティマネジメントシステム認証が一時停止される事態となりました。
  • 教訓となる点
    VPNに代わるセキュリティ強化環境の構築や外部ネットワークとの接続制限、データ取り扱いルールの見直しが必須であることが判明しました。自社だけでなく委託先や取引先を含めたセキュリティ対策の確認と、全体的な防御力強化の必要性が示されました。

効果的な対策の実践

サイバー攻撃から組織を守るためには、技術・組織・人材の三位一体での取り組みが必要です。ここでは、あらゆる企業で実施すべき基本的な対策について解説します。

基本的な防御の構築

現代のサイバー攻撃に対しては、複数の防御策を組み合わせた多層的な対策が必要です。単一の対策に依存するのではなく、防御の層を重ねることで、一つの対策が突破されても別の対策で防ぐという考え方が注目されています。

  • EPP(エンドポイント保護)
    外部からの不正アクセスやマルウェアの侵入を防ぐ水際対策として機能します。基本的な防御の要となり、マルウェア検知や不審な挙動の阻止など、エンドポイントレベルでの基本的な防御機能を提供します。
  • EDR(エンドポイント検知・対応)
    侵入されてしまった場合の早期発見と対応を実現します。異常な挙動を検知し、迅速な対応を可能にする高度な監視・分析機能を持ち、既に侵入した脅威の検出と対応を支援します。
  • NGAV(次世代型アンチウイルス)
    AIを活用して未知の脅威にも対応します。従来型のパターンマッチングでは検出できない攻撃も検知し、振る舞いベースの分析により新種のマルウェアにも対応できる能力を持っています。
  • MDR(マネージド検知・対応)
    専門家による24時間体制の監視と、インシデント発生時の迅速な対応を実現します。自社でセキュリティ専門家を確保できない企業でも、高度なセキュリティ対策を外部サービスとして利用することが可能になります。

また、基本的な対策としては以下も不可欠です。

  • セキュリティパッチの迅速な適用と管理
    最新の脆弱性を修正することで、既知の問題を解消します。自動更新の設定や管理ツールの活用により、組織全体での一貫したパッチ適用が可能になります。
  • システムログの継続的な監視と分析
    異常な挙動や不正アクセスの早期発見に貢献します。大量のログから意味のあるパターンを抽出し、インシデントの予兆を検知することで、被害拡大を防止します。
  • 重要データの定期的なバックアップ
    ランサムウェア等の被害からの復旧を可能にします。バックアップの分離保管や定期的な復元テストにより、実際の緊急時に確実に機能する体制を整えることが求められます。

企業・組織としての取り組み

技術的な対策と並んで注力すべきなのが、企業・組織全体でのセキュリティ対策です。セキュリティは技術部門だけの問題ではなく、全社的な課題として取り組む必要があります。

セキュリティポリシーの策定と運用

  • 基本方針の明文化
    組織としてのセキュリティに対する考え方を定義します。経営層の承認を得た明確な方針は、組織全体でのセキュリティへの取り組みの基盤となります。
  • 具体的な実施手順
    日常業務における具体的な行動指針を示します。抽象的な方針だけでなく、実際の業務に落とし込んだ手順を定めることで、全従業員が一貫した対応を取ることが可能になります。
  • 定期的な見直し
    脅威の変化に応じたポリシーの更新を行います。新たな脅威や技術の変化に合わせて定期的に見直しを行い、常に最新の状況に適応した対策を維持することが必要です。

インシデント対応体制の整備

  • 対応手順の文書化と周知
    セキュリティインシデント発生時の行動計画を整備します。事前に定められた手順により、混乱時でも冷静な対応が可能になり、被害の最小化につながります。
  • 関係部門の役割明確化
    インシデント対応における各部門の責任と権限を定義します。IT部門だけでなく、経営層や広報、法務部門など関連する全ての部門の役割を明確にすることで、迅速かつ適切な対応が可能になります。
  • 定期的な訓練の実施
    実際のインシデントを想定した演習を行います。机上訓練や実機を使用した演習により、対応手順の実効性を検証し、改善点を洗い出すことができます。

サプライチェーン対策

最近の攻撃動向から、取引先を含めたセキュリティ対策の実施が欠かせなくなっています。自社のセキュリティレベルが高くても、取引先を経由した攻撃には脆弱であるケースが多く、サプライチェーン全体でのセキュリティ強化が必要です。特に以下の点に注意が必要です。

  • 取引先も含めたセキュリティ基準の策定
    最低限遵守すべきセキュリティ要件を明確にします。重要なデータを共有する取引先には、自社と同等のセキュリティレベルを求めることで、サプライチェーン全体での防御レベルを向上させることができます。
  • 定期的な監査の実施
    取引先のセキュリティ状況を確認するための評価を行います。書面による自己評価だけでなく、必要に応じて現地監査や技術的な検証を実施することで、実効性の高い対策を促進することができます。
  • インシデント発生時の連絡体制の確立
    取引先でのセキュリティ事故を迅速に把握する仕組みを整備します。早期の情報共有により、自社への影響を最小限に抑え、適切な対応を取ることが可能になります。
  • 共同での訓練実施
    取引先も含めたインシデント対応訓練を行います。実際の業務プロセスに沿った訓練により、インシデント発生時の連携上の課題を事前に発見し、改善できます。

システム構成別のセキュリティ対策

基本的な対策に加え、システムの構成や運用形態に応じた適切な対策の選択が不可欠です。ここでは、代表的なシステム環境として「クラウド環境」「オンプレミス環境」「ハイブリッド環境」を取り上げ、それぞれの特性に応じたセキュリティ対策のポイントを解説します。業界や企業規模によって最適な環境は異なりますが、それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせた対策を講じることが大切です。

クラウド環境での対策

クラウドサービスを中心にシステムを構築している環境では、従来型のセキュリティ対策に加え、クラウド特有のリスクへの対応が必要です。クラウドの特性を理解し、責任共有モデルに基づいた適切な対策が求められます。

  • セキュアなクラウドサービスの選定
    信頼性の高いプロバイダーの選択と、セキュリティ機能の十分な評価が必須です。セキュリティ認証の取得状況や、過去のインシデント対応実績などを考慮し、自社のセキュリティ要件に適合するサービスを選定することで、クラウド環境における基盤のセキュリティレベルを確保できます。
  • アクセス制御の厳格化
    多要素認証の導入や、アクセス権限の細かな管理による不正アクセスの防止が必要です。最小権限の原則に基づき、業務に必要な最低限の権限のみを付与し、定期的な権限レビューを行うことで、内部不正や権限の悪用リスクを低減できます。
  • データ暗号化の徹底
    保存データと通信経路の両方で確実な暗号化を実施します。機密データの保護には、保存時(保存データ)と移動時(通信経路)の両方での暗号化が必須であり、暗号鍵の適切な管理と定期的な更新もセキュリティを強化する不可欠な要素です。

オンプレミス環境での対策

自社でサーバーやネットワークを保有・管理し、社内にシステムを構築している場合は、以下の対策に注力する必要があります。物理的な管理と論理的なセキュリティの両面からの防御が求められます。

  • 境界防御の強化
    ファイアウォールやIPS/IDSなどによる外部からの不正アクセス対策を実施します。ネットワークの出入口を制御し、不審なトラフィックを検知・遮断する仕組みを整えることで、外部からの攻撃を防ぐ第一の防衛線として機能させることがセキュリティ体制の基盤となります。
  • 内部ネットワークの分離
    重要システムの隔離と、アクセス制御による内部からの脅威対策を講じます。業務や情報の重要度に応じてネットワークを分離し、部門間や機能間での不要なアクセスを制限することで、万一侵入された場合でも被害の拡大を防ぐことができます。
  • 物理セキュリティの確保
    サーバールームへの入退室管理や監視カメラによる物理的な保護を強化します。論理的なセキュリティだけでなく、物理的なアクセス制御も不可欠であり、重要な機器や媒体への不正アクセスを防止するための対策が必要となります。

ハイブリッド環境での運用

クラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッド環境では、両者の特性を踏まえた統合的な対策が求められます。異なる環境間でのセキュリティレベルの統一と、環境間の接続部分のセキュリティ確保が課題となります。

  • 統合的な監視体制の構築
    クラウドとオンプレミス双方を一元的に監視し、異常を検知します。環境ごとに分断された監視ではなく統合的な可視化を実現することで、環境をまたいだ攻撃や異常の検出が可能となり、セキュリティ運用の効率化にもつながります。
  • ID管理の一元化
    シングルサインオンの導入による認証の統合と、アクセス管理の効率化を図ります。複数環境にまたがるユーザー認証を一元管理することで、セキュリティレベルの統一と運用負荷の軽減を両立し、ユーザー体験の向上にも寄与します。
  • セキュリティポリシーの統一
    環境に関わらず一貫したセキュリティ基準を適用します。クラウドとオンプレミスで異なるセキュリティレベルが存在すると、セキュリティの弱い環境が攻撃の入口となるリスクがあるため、統一的な基準の策定と適用がハイブリッド環境における防御体制の土台となります。

効果的なサイバーセキュリティ対策の実現に向けて

サイバー攻撃は年々巧妙化し、その手法も多様化しています。特に近年は、テレワークの普及やデジタル化の加速により、従来の境界型セキュリティだけでは十分な対策とは言えない状況となっています。

効果的なセキュリティ対策の実現には、技術、運用、人材の三位一体での取り組みが不可欠です。技術面では、EPPによる入口対策、EDRによる内部対策、NGAVによる未知の脅威への対応など、複数の防御策を組み合わせた多層防御の構築が必要です。これに加えて、セキュリティパッチの適用やログの監視といった基本的な運用対策を確実に実施し、インシデント発生時の対応手順を明確化することで、実効性のある体制を構築できます。

特に忘れてはならないのが、従業員一人一人のセキュリティ意識の向上です。いかに優れた技術的対策を講じていても、利用する人々の理解と協力がなければ、その効果を十分に発揮することはできません。定期的な教育・訓練を通じて、組織全体でセキュリティリスクへの理解を深めることが、総合的な対策の基盤となります。

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