データセンター移行の3つの方法と失敗しない手順を解説
課題解決のためのノウハウ
デジタル化の急速な進展と生成AI需要の拡大により、データセンターの重要性が高まる一方で、従来の東京一極集中による災害リスクや電力不足が深刻な課題となっています。こうした背景から、政府は2022年に「デジタル田園都市国家構想」を発表し、1,000億円規模の補助金制度によってデータセンターの地方分散を積極的に推進しています。地方へのデータセンター設置は、事業継続計画対策(BCP対策)の強化やコスト削減といった企業側のメリットに加え、地域経済の活性化や雇用創出など社会全体への好影響をもたらします。本記事では、地方データセンターの具体的なメリット・デメリットから最新の政府支援策、実際の導入事例まで解説します。
参考:デジタル田園都市国家インフラ整備計画 (改訂版)|総務省
企業のデジタル変革が進むなか、地方のデータセンターはリスク分散以上の戦略的な価値を持っています。災害対策から経済効果まで、地方立地が企業に与える多面的な効果について確認します。
地方データセンターの最大の利点は、自然災害発生時の事業継続性確保です。東京圏に集中するデータセンターでは、首都直下型地震や台風による同時被災リスクが懸念されており、地方への分散配置によってリスクを大幅に軽減できます。
地震活動が少ない地域や活断層から離れた立地を選択することで、災害時でも重要なデータとシステムの可用性を維持できます。実際に、東日本大震災では東京圏のデータセンターも停電や通信障害の影響を受けましたが、地方に分散していた企業は事業継続を図ることができました。リスク分散によって、一つの地域で災害が発生しても他の地域でサービスを継続できる体制を構築できるのです。
BCPと BCP対策としてのデータセンターについて知りたい方は、「BCPとは?企業の災害対策に重要なデータセンター選び」も併せてご確認ください。
地方でのデータセンター運用は、土地・建設コストの削減に加え、人件費や電力料金の安さによる継続的なメリットをもたらします。
一般的に地方では都市部と比較して地価が安く、大規模なデータセンター建設に必要な広大な敷地を低コストで確保できます。また、建設資材の調達コストや労働者の人件費も都市部より抑えられるため、数十億円規模のプロジェクトでは初期投資を大幅に圧縮できる可能性があります。
運用面でも、地方では都市部と比較して人件費が低く抑えられる傾向があり、24時間365日の監視体制を維持するための人的コストを効率化できます。さらに、地方電力会社の料金体系では産業用電力の単価が都市部より低く設定されている場合が多く、データセンターの消費電力量を考慮すると大幅なコスト削減効果を期待できます。
地方立地によるセキュリティ面での優位性は、物理的アクセスの制限とリスク分散の両面で発揮されます。人口密度の低い地域では不正侵入リスクが低く、厳格なアクセス管理を実施しやすい環境が整います。
都市部では周辺環境の変化により予期せぬセキュリティリスクが発生する可能性がありますが、地方では安定した環境を長期にわたって維持しやすいという特徴があります。また、サイバー攻撃や自然災害による同時被災の可能性を最小限に抑え、データの安全性を多重に保護できる点も利点です。
政府のデジタル田園都市国家構想により、地方でのデータセンター整備が活発化しており、利用企業にとって選択肢の幅が大きく広がっています。従来は東京圏に限られていたデータセンターの選択肢が全国各地に拡大することで、立地条件や料金体系を比較検討しながら、自社の要件に最適なデータセンターを選定できる環境が整いつつあります。
2024年度からは「データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱化事業」として、総務省が大規模な補助金制度を開始しており、これにより地方データセンターの品質向上と料金競争力の向上が期待されています。
参考:データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱化事業|総務省
地方データセンターの利用は、地域経済活性化への間接的な貢献により、企業のCSR活動として評価されます。地方にデータセンターを設置することで、その地域の雇用創出や関連産業の発展に寄与し、社会貢献性の高い企業として投資家や消費者からの信頼を獲得できます。
さらに、再生可能エネルギーを活用した環境配慮型データセンターの選択により、ESG評価(環境・社会・ガバナンスの3つの観点から企業の持続可能性を評価する指標)の向上と持続可能な経営姿勢のアピールが可能となります。これにより、ステークホルダーからの信頼獲得と企業価値向上を実現し、長期的な競争優位性の確保にもつながります。
地方でのデータセンター運用には固有の課題も存在するため、事前の対策検討が成功の鍵となります。主要な課題と実践的な解決策を解説します。
地方では都市部と比較してIT専門人材の確保が困難になる場合があります。特に、データセンター運用に必要な高度な技術知識を持つエンジニアや、24時間監視体制を維持するための十分な人員確保が課題となりがちです。
この課題に対しては、リモートワーク制度の充実により首都圏の人材を活用する方法や、地元大学との連携による人材育成プログラムが効果的です。監視業務の一部を東京のオペレーションセンターから行い、現地には最小限の技術者を配置する体制により、人材不足を解決できます。また、地元大学との連携による人材育成プログラムの実施や、継続的な技術研修制度、オンライン教育プラットフォームの活用により、中長期的な人材確保と技術力向上を図ることも可能です。
地方立地では公共交通機関の利便性や物流ネットワークの制約が運用効率に影響する可能性があります。緊急時の技術者派遣や機器交換作業において、都市部と比較して移動時間やコストが増加する場合が多いのです。
対策として、シャトルバス運行や宿泊施設の確保、予備機器の現地配備が有効です。また、IoTやAIを活用したリモート監視システムの導入により、現地作業の頻度を最小限に抑制することも可能です。予防保全の徹底と故障予兆の早期発見により、計画的なメンテナンス体制を構築すれば、緊急対応の回数自体を削減できます。
高品質な通信回線の確保は地方データセンター成功の前提条件です。都市部と比較して、利用可能な通信キャリア数や回線の冗長化選択肢が限られる場合があり、通信品質や可用性の確保が課題となることがあります。
これらの課題を解決するには、事前の詳細な調査と適切な対策が重要です。複数キャリアとの接続や冗長化構成の検討により、都市部と同等以上の通信品質を実現できます。政府の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」では光ファイバーの世帯カバー率99.9%(2027年度)の目標が設定されており、通信インフラの急速な改善が進んでいます。また、5G基地局の地方展開も加速しており、今後数年で通信環境の格差は大幅に縮小する見込みです。
地方データセンターの選定では、立地条件から技術仕様まで多角的な評価が必要となります。導入を成功に導くための具体的なポイントを解説します。
地方データセンター選定で最も重要なのは、自然災害リスクの詳細な評価です。地震発生確率、活断層からの距離、洪水・土砂災害ハザードマップを基に、過去の災害履歴も含め総合的にリスクを判断することが大切です。
具体的には、地震発生確率や活断層からの距離、津波到達想定地域からの距離、河川の氾濫履歴などを調査することが欠かせません。電力供給の安定性についても、複数系統からの受電可能性、変電所からの距離、過去の停電履歴を確認し、通信キャリアの接続状況(複数キャリアの利用可能性、基幹回線への接続距離)も立地選定の重要な判断材料となります。
データセンターの技術仕様では、冗長化された電源設備、高効率な冷却システム、24時間365日の監視体制が基本要件となります。これらの要素について、具体的な確認項目と評価基準を明確に定めて選定を進める必要があります。
セキュリティレベルの評価では、入退室管理システムの多要素認証対応、監視カメラの解像度と保存期間、警備員の常駐体制を確認します。ネットワーク接続性については、総帯域幅、主要都市へのレイテンシ(データ通信の遅延時間)、接続可能キャリア数を詳しく確認し、将来の拡張性対応として、電力容量の余裕度、サーバーラック増設の可能性、冷却能力の拡張余地も評価すべき重要な項目です。
実際の地方データセンター導入事例を分析することで、立地選定の重要なポイントが見えてきます。ここでは、異なる地域特性を活かした2つの代表的な事例を紹介し、それぞれから導き出される選定基準を解説します。
北海道石狩市の大手クラウド事業者のデータセンターでは、北海道の冷涼な外気でサーバールームを冷却する「外気冷房」方式を採用し、一般的な都市型データセンターと比較して約4割の消費電力を削減している実績があります。この施設は国内最大級の郊外型大規模データセンターとして運営されています。
年間を通じて冷涼な気候を持つ地域では、外気冷却による大幅なコスト削減が可能です。立地選定時には、年間平均気温や湿度変動、外気冷房が効果的に機能する期間を詳細に分析することが重要であり、実際にどれくらい冷却コストを削減できるのかを事前に算出しておく必要があります。
印西市は東京から車で約1時間という立地を活かし、大手金融機関や世界的なテクノロジー企業など多数のデータセンターが集積している地域です。周囲40km圏内に主要な活断層がない強固な洪積台地上にあるため、地震による揺れの影響を受けにくく、海岸から20km以上、海抜22.5mに位置しており、津波被害の心配がない立地条件を持っています。また、東日本大震災の時、印西市は一切停電がなかったという災害時の実績もあります。
この事例が示すとおり、都市部からの距離と災害リスクのバランスは重要な要素です。緊急時対応の迅速性を保ちながら災害リスクを分散するためには、主要都市からの車での移動時間2時間以内、鉄道アクセス3時間以内を目安とし、地盤の安定性、活断層からの距離、過去の災害履歴を総合的に評価することが必要です。また、電力インフラの冗長性も重要な判断材料となります。
地方データセンターの設置は、災害リスク分散と運営コスト削減を両立できる有効な事業戦略です。BCP対策の強化やコスト削減に加え、政府の手厚い支援制度により初期投資負担も大幅に軽減されています。人材確保やアクセス面の課題も、リモートワークの活用やインフラ整備により解決可能です。今後のデジタル化加速と地方創生政策の推進により、地方データセンターの戦略的価値はさらに向上することが予想されます。
STNetでは、四国の地理的優位性を活かしたデータセンター「Powerico(パワリコ)」を運営しており、地方立地のメリットを最大限に活用した安全で効率的なデータセンター事業を展開しています。24時間365日の専門技術員による監視体制のもと、高品質なサービスを提供しており、お客さまの大切なデータを保護いたします。地方立地のメリットを活かしたデータセンター事業をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。