エッジデータセンター導入で実現する低遅延処理とビジネス革新
課題解決のためのノウハウ
生成AI需要の急激な拡大により、従来のビル型データセンターでは対応困難な課題が浮上しています。大規模なビル型データセンターの開発には広大な土地と数年もの建設期間を要するため、急増するGPU需要に迅速に対応できません。こうした背景から注目されているのが「コンテナ型データセンター」です。工場でプレハブ化されたデータセンターの設備を現地に運搬し、電源や通信を接続するだけで半年以内に運用開始できる革新的なソリューションとして、近年では建設棟数が大幅な拡大傾向を示しています。
近年のデジタル化とAI技術の急速な進歩により、データセンターに求められる要件が大きく変化しています。従来のビル型データセンターでは実現困難な柔軟性と迅速性を提供する、コンテナ型データセンターの基本的な仕組みと特徴について解説します。
コンテナ型データセンターとは、海上輸送で使われるISO規格のコンテナ内にサーバーラック、電源・通信配線、空調設備、消火設備を組み込んだポータブルなデータセンターです。従来の大型建物内に各設備を個別配置する方式とは異なり、必要なインフラが一体型で提供されるため、設置場所に運び込むだけで迅速な建設が可能となります。
標準的なコンテナ型データセンターは、20フィートまたは40フィートのISO規格コンテナを基盤として設計されており、内部には高密度サーバーラックが配置されています。電力供給システム、UPS(無停電電源装置)、精密空調機器、監視システムがコンパクトに統合され、外部からの電源・通信・冷却水の接続により即座に稼働開始できる構造となっています。モジュール設計により、ビジネスの成長に合わせた段階的な拡張も容易に実現できる点が大きな特徴といえるでしょう。
コンテナ型データセンターの商用化は、2007年にサン・マイクロシステムズが米国で発表したProject Blackboxから始まりました。GoogleやMicrosoftの採用により注目を集めましたが、日本では建築基準法上の「建築物」扱いにより普及が遅れていました。
この状況が大きく変わったのは2011年のことです。国土交通省が無人運用のコンテナ型データセンターを建築物に該当しないとする方針を発表したことで、国内での導入が本格化しました。この法的解釈の明確化により、建築確認手続きが不要となり、設置期間の大幅な短縮が実現したのです。
参考:「報道発表資料:建築確認手続き等の運用改善(第二弾)」|国土交通省
現在のコンテナ型データセンター需要拡大の背景には、生成AIの急速な普及があります。ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルの学習と推論には、従来の数十倍から数百倍の計算能力が必要となり、GPUサーバーの高密度実装が進んでいます。
特にNVIDIA H100やH200といった最新世代のGPUは、従来のCPUサーバーと比較して消費電力と発熱量が桁違いに大きく、専用の冷却システムと電力供給インフラが不可欠です。従来のビル型データセンター建設では、このような急激な需要増加に追いつくことができません。数年を要する建設期間では、市場機会を逸する可能性が高いためです。
このような課題に対して、コンテナ型データセンターは理想的な解決策を提供します。工場での事前組み立てにより品質管理が徹底され、現地での設置作業は最小限に抑えられます。国内主要事業者の建設計画も増加しており、近年では建設棟数が大幅な拡大傾向を示しています。
GPUサーバーの技術的特徴について詳しく知りたい方は、「GPUサーバーとは?GPUサーバーのメリットや高密度サーバーのデータセンター運用のポイントを解説」も併せてご覧ください。
コンテナ型データセンターの導入を検討する際には、その特性を正確に理解することが成功への鍵となります。従来型との比較を通じて、メリットとデメリットを具体的に把握し、自社のビジネス要件に適合するかを判断していきましょう。
従来のビル型データセンターが数年の建設期間を要するのに対し、コンテナ型は半年以内で運用開始できる点が最大の優位性です。この大幅な工期短縮を実現している要因は、工場での事前組み立てにあります。
工場環境では天候に左右されることなく、品質管理された状態で組み立て作業を実施できます。サーバーラック、配線、空調システム、消火設備などの統合テストも事前に完了しているため、現地では電源・通信・冷却水の接続作業のみで済みます。建築確認手続きも不要となるケースが多く、AI需要の急増に迅速対応したい企業にとって最適なソリューションといえます。
さらに、複数のコンテナを並行して製造することも可能であり、大規模なデータセンター構築においても従来方式と比較して大幅な時間短縮を実現できます。
モジュール設計により、需要の変化に応じた段階的な拡張が可能な点もコンテナ型の大きなメリットです。初期投資リスクを抑制しながら事業成長に合わせて増設でき、ビジネスの変化に柔軟に対応できます。
設置場所の柔軟性が高い点も特筆すべき特徴です。防水・耐衝撃性能により建物内だけでなく、屋上や野外への設置も可能となります。特に寒冷地では外気による自然冷却効果(フリークーリング)も期待できるため、運用コストの削減にもつながります。
都市部の限られた土地でも有効活用が可能であり、従来では設置困難だった場所にもデータセンター機能を展開できます。このような設置場所の制約を大幅に軽減できる特徴があります。
データセンターの効率化・省電力化について詳しく知りたい方は、「グリーンデータセンターとは?生成AI時代に必須の省エネ技術」も併せてご確認ください。
独立したコンテナ構造による物理的セキュリティの脆弱性は、慎重な検討が必要な課題です。従来のビル型データセンターのような多重セキュリティ構造を持たないため、適切な防犯対策がなければ不法侵入のリスクが高まります。
このため、生体認証システム、監視カメラ、侵入検知センサーなどの本人認証システムや24時間監視体制の整備が不可欠です。また、セキュリティ要員の常駐や定期的な巡回警備の実施も検討しなければなりません。
コンピューティング性能面では、従来の大規模データセンターと比較して収容可能なサーバー数に制限があります。単一のコンテナ内でのシステム構成となるため、単一障害によるシステム全体の停止リスクにも備えなければなりません。このため、冗長性の確保と適切なバックアップ体制の構築が必要です。複数コンテナによる分散配置や、従来型データセンターとの組み合わせによるハイブリッド構成の検討も重要な選択肢となります。
コンテナ型データセンターの実際の導入においては、法的要件の理解と成功事例の分析が欠かせません。建築基準法や消防法への対応から、活用事例、導入のポイントまで、実務に直結する情報を整理します。
2011年の国土交通省方針により、無人運用されるコンテナ型データセンターは建築基準法上の「建築物」に該当しないと明確化されました。これにより建築確認手続きが不要となり、設置期間の大幅短縮が実現しています。
具体的には、「無人で運用されること」、「土地に定着していないこと(移動可能であること)」、「屋根および柱または壁を有する構造物であっても建築物としての機能を持たないこと」など、これらの条件を満たす場合に建築物に該当しないとされています。
ただし、消防法については設計や床面積に応じた消防用設備の設置が求められるため、導入計画の初期段階から適切な対応策を検討することが必要です。複数のコンテナを積み重ねる場合は建築物扱いとなる可能性もあるため、設計段階での確認が重要になります。
国内の大手事業者を中心に、生成AI需要に対応したコンテナ型データセンターの導入が急速に進んでいます。以下に代表的な導入事例を紹介します。
石狩データセンター敷地内において、NVIDIA H200 GPUを約1,000基整備したコンテナ型データセンターを2025年6月に稼働開始しました。北海道の寒冷な気候を活用したフリークーリングシステムにより、電力効率を大幅に改善しました。高性能GPUの集約により、大規模言語モデルの学習や推論処理を効率的に実行できる環境を提供しています。
福井県美浜町に原子力由来のCO2フリー電気を利用した生成AI向けコンテナ型データセンターを開設し、環境配慮型の運用を実現しました。クリーンエネルギーの活用により、カーボンニュートラルな生成AI基盤の構築を目指しており、ESG経営の観点からも注目を集めています。
2025年5月から冷却性能や熱負荷に関する実証実験を開始し、液冷対応GPUを搭載したコンテナ型データセンターの2025年度内サービス開始を目指しています。最新の液冷技術により、従来の空冷方式では困難だった高密度GPU配置を実現し、次世代の生成AI基盤の構築に取り組んでいます。
コンテナ型データセンター選定では、用途・規模に応じた仕様選択と総合的な評価が成功の前提となります。以下の観点から慎重に検討することが求められます。
最新のGPUサーバーに対応した高排熱処理能力があることを検証します。NVIDIA H100/H200クラスのGPUは1基あたり700W以上の電力を消費するため、適切な冷却システムの選定が不可欠です。
将来の事業成長を見据えたモジュール増設の可能性を事前に確認します。電力供給容量、ネットワーク接続、冷却システムの拡張性を総合的に評価し、段階的な成長に対応できる設計を選択することが重要です。
建築基準法・消防法への適合性を導入前に検証し、トラブルを回避します。特に設置場所の用途地域や防火地域の指定、近隣建物との離隔距離などの確認が必要です。
初期投資と運用コストのバランスを考慮し、事業価値向上につながる選択を行います。電力効率(PUE値)、保守メンテナンス費用、拡張時のコストも含めた総保有コスト(TCO)での比較検討が重要になります。
コンテナ型データセンターは、生成AI時代のデータ処理需要急増に対応する革新的なソリューションです。従来のビル型データセンターでは実現困難だった半年以内という短期構築と、モジュール設計による柔軟な拡張性により、企業のデジタル変革を迅速に支援できます。
2011年の建築基準法緩和により国内でも本格普及が始まり、現在は生成AI需要の拡大を背景に市場の急成長が続いています。導入検討では工期短縮・拡張性・エネルギー効率といったメリットと、物理的セキュリティや性能制約というデメリットを総合評価することが重要です。
コンテナ型データセンターの物理的セキュリティや性能制約が懸念される場合、従来型の固定設置データセンターとの併用や代替選択肢を検討することも重要です。STNetでは堅牢で信頼性の高いデータセンターソリューションを提供しています。「Powerico(パワリコ)」は、コンテナ型とは異なる固定設置型のデータセンターで、過去100年間で震度6以上の地震が発生していない、災害に強い地理的優位性を持っています。24時間365日の専門技術員による監視体制により高品質なサービスを提供しており、お客さまの大切なデータとシステムを確実に保護し、事業継続性の向上に貢献いたします。データセンター基盤の構築や運用でお悩みの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。