グリーンデータセンターとは?生成AI時代に必須の省エネ技術

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課題解決のためのノウハウ

DXの加速と生成AIの急速な普及により、データセンターの消費電力は劇的に増加しています。AIの学習処理には従来の数十倍から数百倍の計算能力が必要となり、GPUサーバーの高密度実装が進むなか、冷却システムへの負荷も急激に高まっています。2030年には世界の総電力消費量の10%を超えると予測されており、従来の空冷方式では対応困難な高発熱環境への対処が急務となりました。こうした背景から、環境に配慮した「グリーンデータセンター」の導入が企業の競争力を左右する時代となり、液体冷却技術や再生可能エネルギーの活用が注目を集めています。本記事では、グリーンデータセンターの基礎知識から最新の液体冷却技術、選定のポイントまで解説します。

グリーンデータセンターの基礎知識とAI時代の重要性

企業のデジタル変革と生成AI活用が進む中、データセンターには従来とは次元の異なる処理能力と効率性が求められています。環境負荷を最小限に抑えながら高性能を実現するグリーンデータセンターの概念と、その背景にある技術革新について見ていきましょう。

グリーンデータセンターとは?定義とPUE指標

グリーンデータセンターとは、最適なエネルギー効率を実現し、環境への影響を最小限に抑えたデータセンターを指します。その効率性は「PUE(Power Usage Effectiveness)」という指標で評価され、データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値で表されます。

一般的なデータセンターのPUE値は1.5~2.0程度ですが、グリーンデータセンターでは1.3以下を目指すのが標準的です。このPUE値を改善するため、冷却システムの最適化、再生可能エネルギーの活用、高効率なUPS(無停電電源装置)の導入が不可欠となっています。

生成AI普及がもたらすデータセンター消費電力の急増

生成AIの学習と推論には従来のシステムとは比較にならないほどの計算能力が必要となります。GPUサーバーの高密度実装により、1ラック当たりの発熱量が劇的に増加し、従来の5~10kW程度から30~50kWに達することも珍しくありません。

次世代グリーンデータセンター協議会によると、データセンターの電力消費量は現在世界の総電力の約3%を占めており、2030年には10%を大きく超えると予測されています。この急激な増加に対応するため、効率的な冷却技術の導入が持続可能な事業運営の鍵を握っています。

出典:次世代グリーンデータセンター用デバイス・システムに関する協議会(産業技術総合研究所)

企業に求められる脱炭素経営とサステナビリティ対応

東京証券取引所のプライム市場上場企業には、環境問題を含むサステナビリティへの対応と開示が義務付けられています。グリーンデータセンターの利用は、企業の環境配慮姿勢を対外的にアピールでき、ESG投資の観点からも企業価値向上に直結します。

初期の導入コストは従来型より高くなる場合がありますが、電力効率の向上により運用コストが削減され、中長期的には総所有コスト(TCO)の改善が実現できます。多くの場合、3~5年でROI(投資収益率)を回収し、その後は継続的なコスト削減効果を享受できる戦略的な選択肢として注目されています。

ESG経営とサステナビリティへの取り組みについて詳しく知りたい方は、「ESGとは?意味やSDGs・CSRとの違い、サステナブル経営への道筋を解説」もご確認ください。

次世代冷却技術「液体冷却」の革新とグリーン化実現手法

生成AI時代のデータセンターでは、従来の空冷方式を超えた革新的な冷却技術が必要となります。液体冷却を中心とした最新技術と、再生可能エネルギーを活用したグリーン化手法について詳しく解説します。

液体冷却方式の種類と従来空冷との比較

液体冷却技術は、AIワークロードの高発熱問題を解決する最も有効な手段として急速に普及しています。主な手法として「直接液体冷却」「ハイブリッド液体冷却」「浸漬冷却」の3つがあり、それぞれ異なる特徴と適用場面を持っています。

直接液体冷却は、冷媒を循環させてサーバーの熱を除去する方式です。CPUやGPUに直接取り付けられたコールドプレートに冷媒を流し、効率的に熱を除去します。空気の約3,500倍の熱伝導率を持つ液体を活用することで、高密度サーバー環境でも安定した冷却性能を発揮できます。
ハイブリッド液体冷却は、空冷と液体冷却を組み合わせた方式で、最も発熱量の多い部品(CPUやGPU)のみを液体冷却し、その他の部品は従来通り空冷で対応します。導入コストを抑えながら冷却効率を向上できるため、段階的な移行を検討する企業に適しています。

従来の空冷方式では対応困難な高発熱環境において、液体冷却技術の導入により大幅な電力効率向上が期待されています。冷却ファンの消費電力削減、空調システムの負荷軽減により、データセンター全体のPUE値改善に大きく貢献します。

AI対応高密度サーバーに必須の液浸冷却技術

液浸冷却は、絶縁性の液体にサーバー全体を浸して直接冷却する最も効率的な手法です。国内外のデータセンター事業者において液浸冷却技術の導入が進んでおり、従来の空冷方式では実現困難な高密度実装と省エネ化を両立できます。

液浸冷却の最大の利点は、冷却ファンが不要になることです。従来のサーバーでは消費電力の約20~30%が冷却ファンによるものでしたが、液浸冷却により、この電力消費を完全に削減できます。国内外のデータセンター事業者において液浸冷却技術の導入が加速しており、GPUサーバーの高発熱問題を根本的に解決し、データセンターの集約化と効率化が可能となります。

再生可能エネルギー活用と電力効率化の両立戦略

国内のデータセンター事業者では、100%再生可能エネルギーを活用したグリーンデータセンターの構築が進んでいます。太陽光発電、風力発電、地熱発電などの自然エネルギーと蓄電システムを組み合わせることで、電力調達コストの安定化と環境負荷の大幅削減を同時に実現できます。

洋上風力発電を活用した次世代データセンターの実証実験も開始されており、完全自立型の環境配慮型データセンターの実現に向けた取り組みが加速しています。海上の安定した風力を活用することで、データセンターの24時間365日稼働に必要な安定電力供給を可能にします。

企業における再生可能エネルギー導入の具体的な取り組みについて詳しく知りたい方は、「持続可能な社会実現のために-再生可能エネルギー導入で企業ができる取り組みとは」も併せてご確認ください。

省エネ設計と冷却システム最適化

グリーンデータセンターでは、建物設計段階からの省エネ対策が重要な要素となります。外気冷房(エコノマイザー)やフリークーリングの活用により、春季・秋季などの外気温が低い時期期における冷却電力を大幅に削減できます。日本では年間の約6~8ヶ月間で外気冷房が利用可能で、この期間中は機械式冷房の稼働を大幅に削減できます。

IT発熱量に応じた動的空調制御システムの導入により、ファンの回転数や冷水温度をリアルタイムで最適化し、継続的なPUE改善を実現できます。寒冷地立地を活用したナチュラルクーリングでは、年間を通じて外気による冷却効果を最大化し、PUE値1.1台という極めて高い効率性を実現できます。

グリーンデータセンター選定のポイントと導入効果

企業がグリーンデータセンターを選定する際の具体的な評価基準と、導入後に期待できる効果について実務的な観点から解説します。自社のビジネス要件に最適なソリューション選択のためのアプローチをご紹介します。

技術面・運用面の選定ポイント

グリーンデータセンター選定では、環境性能と運用品質の両面からの総合評価が成功の鍵となります。単に「環境にやさしい」というだけでなく、具体的な指標に基づいた客観的な評価が必要です。

環境性能の評価基準

PUE値1.3以下が現在のデータセンター業界における推奨基準となります。また再生可能エネルギー利用率50%以上であることが、電力調達における環境配慮の目安です。

運用品質の確認事項

24時間365日の専門技術者による監視体制と免震・耐震構造が必須条件です。ISO14001やISO27001等の第三者認証取得が信頼性の証明となります。

立地条件の優位性

過去の災害履歴と将来予測に基づく自然災害リスクの評価が欠かせません。緊急時対応や定期メンテナンスの効率性を考慮したアクセス性も選定の主要な要素となります。

コストとリスクのバランスを考慮した選定ポイント

グリーンデータセンターの導入では、初期投資と長期的なコスト削減効果のバランスが大切です。リスク管理の観点も含めた総合的な評価方法をご紹介します。

TCOによる総合評価

初期導入コストと運用コスト削減効果を含めた3~5年での投資回収が一般的な目安です。電力料金削減や運用効率化による継続的なコスト効果を適切に評価することが必要です。

リスク管理の視点

特定の技術や事業者への過度な依存を避ける契約設計が不可欠です。電力供給やネットワーク接続の多重化による可用性確保と、将来の気候変動や環境規制強化への適応能力を評価する必要があります。

契約条件の重要ポイント

稼働率保証や復旧時間、ペナルティ条件等の具体的なSLA内容を精査することが必要です。将来の事業拡大に対応できる拡張性と技術アップグレード方針の明確化が契約成功の鍵となります。

導入効果の定量化と継続的な価値向上

グリーンデータセンター導入による効果を適切に測定し、継続的な改善につなげることが成功の鍵となります。環境面と経営面の両方からの効果測定方法について説明します。

環境面での効果測定

CO2排出量削減実績を定量化し、環境報告書での訴求材料として活用できます。電力使用量削減効果をkWh単位で継続監視し、廃熱回収等の副次的な環境貢献効果も評価対象として含めなければなりません。

経営面での価値評価

電力コスト削減額を月次・年次で算出し、ROI計算の基礎データとして活用します。ESG評価向上による企業価値向上と、環境配慮企業としてのブランド価値向上による営業効果や採用活動への影響を測定することが必要です。

継続的改善の実践

最新冷却技術の動向把握と設備更新計画の策定が価値向上の要となります。電力市場変動に応じた再生可能エネルギー調達戦略の見直しと、AI活用による予測制御や自動最適化の導入が効率向上の鍵です。

グリーンデータセンターが切り拓く持続可能なデジタル社会

生成AI時代において、グリーンデータセンターは企業の競争力と持続可能性を両立する戦略的インフラとなっています。液体冷却技術の進歩により従来では実現困難だった高効率冷却が可能となり、再生可能エネルギーとの組み合わせで環境負荷を大幅に削減できます。選定時にはPUE値や冷却技術、再エネ利用率などの技術的指標に加え、24時間365日の監視体制や免震構造などの運用品質、立地条件も総合的に評価することが重要です。今後のデータセンター選択においては、コスト効率と環境価値のバランスを考慮し、自社のビジネス戦略に最適なグリーンデータセンターを選定することで、持続可能なデジタル変革を実現していきましょう。

こうしたグリーンデータセンターの選定と活用には、環境性能と運用品質を兼ね備えたインフラ基盤が不可欠です。STNetでは、環境に配慮した運用を実現する高効率データセンター「Powerico(パワリコ)」と、柔軟なリソース調整が可能な「STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]」により、お客さまの脱炭素経営とデジタル変革を支援しています。

「Powerico(パワリコ)」は、高効率な空調システムと24時間365日の専門技術員による監視体制により、安定した運用と電力効率の最適化を実現しています。 24時間365日の専門技術員による監視体制のもと、安定した運用と電力効率の最適化を実現しており、お客さまの大切なデータを確実に保護します。さらに、再生可能エネルギー100%導入可能な電力供給オプションも提供しており、企業の脱炭素経営目標の達成を強力にサポートします。

また「STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]」では、必要な時に必要な分だけリソースを利用できるため、電力消費を抑制しながら効率的なシステム運用が可能です。これらのサービスを組み合わせたハイブリッド環境の活用により、基幹システムの安定運用と新規システムの柔軟な展開を両立し、段階的なグリーン化を進めることができます。持続可能なIT基盤の構築と運用効率化の実現に向けて、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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