データセンター通信インフラ選定ガイド
~ マルチクラウド時代の最適解

FOR BUSINESS

課題解決のためのノウハウ

高度なデジタル化が進むなか、企業のデータ通信環境は大きく変化しています。特にオンプレミス環境とクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド環境の普及、さらに複数のクラウドサービスを使い分けるマルチクラウド化の進展により、データセンターと通信インフラの選定は、ビジネスの継続性と成長を左右する重要な経営判断となっています。本記事では、情報システム部門の責任者が直面する通信インフラの課題に対し、具体的な解決策と信頼性の高いインフラ選定のポイントを解説します。

デジタルトランスフォーメーション(DX)がもたらす通信環境の変化

企業のデジタルトランスフォーメーション加速に伴い、データセンター通信に求められる要件が進化を続けています。データセンター通信とは、データセンター施設内外における全ての通信インフラを指し、インターネット接続、クラウド接続、拠点間接続などを包括的に含む概念です。

データ通信環境の変化と課題

データトラフィックは複雑化と大容量化が進んでいます。従来の基幹システムデータに加え、AI分析や非構造化データの処理など、新たなデータ処理への対応が必須となっています。例えば、画像認識AIの学習データセットは数テラバイト規模となり、IoTセンサーからは多数のデバイスが小規模なデータパケットを継続的に送信します。このような環境では、安定した高速通信の確保が不可欠です。さらに、ビッグデータ分析基盤では日々蓄積される大量のデータを継続的に収集・分析する必要があり、クラウドサービス間でも安定したデータ連携が求められています。

マルチベンダー環境における運用課題

データセンターと通信回線の契約者が異なることで、障害発生時の切り分けや復旧に多大な時間を要するケースが散見されます。複数のクラウドサービスを併用する環境下では、各ベンダーとの調整や責任分界点の確認に時間を要し、ビジネスへの影響が懸念されます。

特に深刻な問題として、障害発生時の対応の長期化が挙げられます。複数ベンダー間での調整が必要となることで初動対応が遅れ、責任分界点の不明確さから原因特定に時間がかかるケースが多発しています。また、運用管理面では、異なる管理ツールやポータルの併用を強いられることで運用効率が低下し、統一的な監視・運用体制の構築が困難になっています。

高品質なデータセンター通信の要件

データセンター選定において、通信品質は事業継続性を左右する確認項目となっています。特に、デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、通信インフラへの要求は一層高まっています。

マルチキャリア接続の重要性

複数の通信キャリアによる冗長構成により、高い可用性と安定したネットワーク環境を実現できるでしょう。経路の分散化によって、広域災害時でも事業継続性を確保しやすい環境を整えることができます。

具体的には、以下のような構成が推奨されます。

  • プライマリ回線とバックアップ回線の異なるキャリアでの構築
    障害時の代替経路確保により、サービス継続性を向上させます。
  • 物理的に異なる経路での回線敷設
    災害時のリスク分散として有効です。
  • 自動経路切替機能の実装
    障害検知から切り替えまでの時間を最小化します

高速・低遅延通信の実現

1GbE以上の高速通信回線と最適化された通信経路により、基幹業務システムなど、事業継続に重要なシステムにも対応可能な通信品質を確保できます。データベース連携やリアルタイム処理において、通信遅延の低減が処理性能を大きく左右する点に注目が集まっています。

主に以下のような要素が重要となります。

  • 広帯域回線の確保
    基幹システムの安定運用に必要な帯域を確保します。特にピーク時のトラフィック増加に対応できる余裕を持った設計が重要です。
  • 通信経路の最適化
    データセンターと接続拠点間の最短経路設計により、遅延時間を最小化します。特にクラウドサービス接続では重要な要素となります。
  • QoS(Quality of Service)制御の実装
    重要度の高い通信の優先制御により、混雑時でも必要な帯域を確保します。基幹システムの安定運用に不可欠です。
  • ネットワーク監視による品質管理
    リアルタイムな通信品質の監視と分析により、問題の早期発見と対応が可能です。

クラウド接続の選択肢

専用線接続や閉域網サービスを活用することで、パブリッククラウドとの安全で高速な接続を実現できる可能性があります。柔軟なクラウド活用を可能にする選択肢として、以下のようなサービスが提供されています。

  • クラウド事業者との直接接続サービス
    AWS Direct ConnectやAzure ExpressRouteなど、クラウド事業者が提供する専用線接続により、安定した高速通信を実現します。
  • 閉域網サービスによる安全な接続
    インターネットを経由しない専用のネットワークにより、セキュアな通信環境を構築します。機密性の高いシステムに適しています。
  • マルチクラウド接続サービス
    複数のクラウドサービスを一元的に接続可能なサービスを提供します。統合的な運用管理と柔軟なリソース活用を実現します。
  • SD-WAN(Software Defined Wide Area Network)による動的経路制御
    ネットワークの自動最適化により、効率的なトラフィック制御を実現します。コストと性能のバランスを改善します。

閉域網について詳しくは、お役立ち資料「閉域網接続とは?基幹システムにおける閉域網接続の基礎」をダウンロードしてぜひご覧ください。

通信インフラ選定の評価基準

通信インフラの選定には、回線品質やサポート体制、コストなど、複数の評価軸による総合的な判断が求められます。短期的な要件と長期的な展望の両面から、適切な評価基準に基づいて検討を進めることが重要です。

回線品質の要件

帯域保証、可用性保証、通信遅延などの具体的な数値において、SLA(Service Level Agreement:サービス合意書)の内容を詳細に確認することが望ましいといえます。

特に以下の項目に注目する必要があります。

  • 帯域保証(Committed Information Rate)
    契約帯域の実効速度を保証します。特にピーク時の最低保証帯域が重要な評価指標となります。
  • 可用性保証(年間稼働率)
    年間を通じたサービス提供時間を保証します。99.99%以上の高可用性が求められる基幹システムでは特に重要です。
  • 通信遅延(往復遅延時間)
    データセンターと接続拠点間の往復にかかる時間を保証します。リアルタイム処理を必要とするシステムでは特に重要な指標です。
  • パケット損失率
    送信されたデータパケットの損失割合を規定します。映像配信やVoIPなど、リアルタイム通信の品質に直接影響します。
  • 障害復旧時間(MTTR)
    障害発生から復旧までの目標時間を定めます。事業影響度に応じた適切な設定が必要です。

ベンダーロックインの回避

特定ベンダーに依存しない柔軟な構成を採用することで、将来的な拡張性と選択肢を確保することができます。

以下のような観点での検討が重要です。

  • 標準的なプロトコル・インターフェースの採用
    相互接続性を確保し、将来的なベンダー変更を容易にします。
  • マルチベンダー対応の管理ツール選定
    複数ベンダーの機器やサービスを統合的に管理できる環境を実現します。
  • 移行容易性の確保
    データ形式や API の標準化により、他システムへの移行コストを最小化します。
  • 契約期間と解約条件の確認
    長期的な柔軟性を確保できる契約条件を設定します。

ベンダーロックインの回避について詳しくは、「ベンダーロックインを回避し、最適なシステム環境を構築するポイントを解説」をご覧ください。

サポート体制の充実

24時間365日のサポート体制に加え、データセンターと通信回線の問い合わせ窓口を一本化できるワンストップ体制の有無が、運用効率を左右する主要な判断基準となっています。 統一された問い合わせ窓口では、データセンター設備から通信回線、クラウド接続まで、インフラ全体を包括的にサポートします。明確なエスカレーションルートと、定期的な性能レポートの提供により、安定したシステム運用を支援します。また、運用支援ツールの提供を通じて、日常的な監視業務の効率化にも寄与します。

コストパフォーマンスの検討

初期費用と運用コストのバランス、将来的な拡張性を考慮した総合的な投資対効果のチェックが必要とされています。短期的なコスト削減だけでなく、中長期的な事業成長を見据えた投資判断が求められるところです。以下の要素を総合的に判断していきましょう。

  • 初期投資と運用コストの内訳
    設備投資、回線費用、保守費用などの総額を算出し、長期的な収支計画を立案します。
  • 将来的な帯域拡張コスト
    トラフィック増加に対応するための追加投資を予測し、適切な初期構成を選定します。
  • 運用管理工数の削減効果
    統合管理ツールの活用や運用フローの最適化により、人的コストの削減を図ります。
  • 障害対応コストの軽減
    予防保全や迅速な障害対応により、ダウンタイムによる事業損失を最小化します。

長期運用の要件

安定した通信インフラの長期運用を実現するには、システム面、運用面、契約面など、多角的な視点からの検討が必要です。以下の要件を考慮することで、将来的な変化にも柔軟に対応できる基盤を構築できるでしょう。

  • システム拡張への対応
    ラック数、電源容量、ネットワーク帯域など、システムリソースの中長期的な需要を予測し、計画的な拡張を行います。
  • 技術革新への追従
    新技術やプロトコルの採用が可能な柔軟なインフラ構成を検討します。特に標準規格の採用により、将来的な更新や移行を容易にします。
  • 運用品質の向上
    日々の運用で得られた知見を活かし、継続的な改善を行える体制を整備します。インシデント管理や変更管理のプロセス確立が必要です。
  • 長期契約の柔軟性
    中長期の契約において、仕様変更や解約条件などの柔軟性を確保します。特にSLAの見直しや契約更新時の条件変更に対応できるようにしておきます。
  • 運用チームの育成
    技術力向上や運用ノウハウの継承を計画的に進める体制を整備します。特に新技術への対応力強化と、運用経験の蓄積・共有は必須です。

最適な通信インフラの導入プロセス

業種や規模に応じた最適な通信インフラの選定には、体系的なアプローチが効果的とされています。現状分析から移行計画まで、3つのフェーズにおいて綿密な計画のうえ実行していきましょう。

現状分析のポイント

既存の通信環境の現状と課題を正確に把握することが、適切な改善策の立案につながります。以下の観点から詳細な分析を進めます。

  • 既存システムの通信量と増加傾向の把握
  • アプリケーションごとの通信要件(帯域、遅延)の特定
  • 現在の課題と改善ポイントの明確化
  • 将来的なシステム拡張計画の確認
  • コスト分析(現状の通信コストの内訳)

要件定義のポイント

現状分析で得られた情報を基に、新しい通信インフラに求められる要件を具体化します。システムの安定運用に必要な要素を以下の観点から定義します。

  • 必要帯域の算出(ピーク時の通信量+将来の増加分)
  • 可用性要件(想定されるダウンタイムの許容範囲)の設定
  • セキュリティ要件(通信の暗号化レベル、アクセス制御)の具体化
  • 運用管理要件(監視項目、レポート要件)の明確化
  • 予算枠(初期費用、運用コストの上限)の設定

移行計画策定のポイント

業務への影響を最小限に抑えながら、確実な移行を実現するための計画を立案します。以下の項目について、具体的な実施内容を定めます。

  • 段階的な移行スケジュールの立案
  • システム切り替え時の影響範囲の特定
  • バックアップ手段の確保
  • 切り戻し計画の策定
  • 社内外の関係者とのスケジュール調整
  • 移行後の検証項目の具体化

特に注意すべき点として、現状分析では将来的なトラフィック増加を見据えた余裕を持った見積もりが重要です。要件定義においては、ビジネス部門との綿密な協議により、システムのダウンタイムが事業に与える影響を具体的に数値化することが望ましいといえるでしょう。移行計画では、できる限り業務への影響を最小限に抑えるため、段階的な移行アプローチを検討することが推奨されます。

信頼性の高いデータセンター通信インフラの実現

データセンター通信インフラの選定において、高品質な通信環境の確保とワンストップでの運用管理は、ビジネスの安定性と効率性を左右する重要な要素となっています。信頼性の高い通信インフラを構築するには、堅牢な通信環境、充実したサポート体制、そして将来的な拡張性の確保が不可欠と考えられます。

また、運用面では、障害発生時の迅速な対応と復旧を実現する一貫性のあるサポート体制が重要となります。複数のベンダーが関わるシステム構成では、各社との調整に時間を要し、ビジネスへの影響が懸念されるケースも少なくありません。

これらの課題に対し、STNetは高品質な通信環境と一元化された運用管理体制を提供しています。データセンター「Powerico(パワリコ)」では、複数の通信キャリアによる高品質回線を標準装備し、ベンダーフリーでの柔軟な利用が可能です。法人専用「STIA DCプレミアム」では、最大1Gbpsの高速通信と専用帯域保証により、安定したネットワーク環境を提供します。さらに「ST-WANダイレクトコネクト」により、AWS、Google Cloud、Azureなど主要クラウドへの高品質な閉域接続を実現します。

特に、データセンター、クラウド、通信サービスの保守受付をワンストップで提供する体制により、障害発生時の切り分けや復旧作業を迅速化し、ビジネスの継続性をご支援します。安定したビジネス基盤の構築にご関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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