首都圏の電力供給リスクとは?
需給ひっ迫の原因と企業・家庭でできる対策を解説

FOR BUSINESS

課題解決のためのノウハウ

首都圏では電力需給のひっ迫が常態化しつつあり、猛暑・寒波時の大停電リスクが高まっています。火力発電所の休廃止、原発再稼働の遅れ、LNG燃料への依存などが主な要因となり、東京電力管内では予備率が3%を下回る事態が頻発しています。2021年の寒波では市場価格が高騰し、2022年には大停電一歩手前の危機に直面しました。本記事では、首都圏の電力供給リスクの実態から、ひっ迫が起こる5つの構造的要因、さらに企業や家庭で実践できる具体的な対策まで解説します。

首都圏の電力供給リスクとは?現状と課題

首都圏における電力供給の危機的状況は、一過性の問題ではなく構造的な課題として顕在化しています。東京電力管内で頻発している需給ひっ迫の実態について確認していきましょう。

電力供給リスクの定義と首都圏の特殊性

電力供給リスクとは、需要に対して供給力が不足し停電や電力制限が発生する可能性を指します。首都圏では膨大な電力需要が集中しており、供給余力を示す「予備率」が3%を下回ると大規模停電のリスクが高まります。

東日本大震災後の原子力発電停止により、火力発電への依存度が高まった結果、燃料調達リスクと気象変動への脆弱性が増大しています。首都圏は日本の電力消費の約3割を占める巨大需要地であり、万が一大規模停電が発生すれば経済活動全体に甚大な影響を及ぼします。このため、他の地域と比較して電力の安定供給がより強く求められる特殊性があります。

2021年から2024年に起きた電力需給ひっ迫の事例

近年、首都圏では電力需給のひっ迫が繰り返し発生しており、その頻度は年々増加傾向にあります。

2021年1月は記録的な寒波により暖房需要が急増し、電力市場価格が通常の数十倍に高騰する事態となりました。2022年3月には福島県沖地震と気温低下が重なり、予備率が1%を下回る危機的状況となりました。政府は初めて「電力需給ひっ迫警報」を発令し、企業や家庭に節電を呼びかける異例の対応を取りました。

さらに、2024年夏には猛暑により冷房需要が急増し、予備率が3%を一時下回りました。中部電力からの広域融通で対応しましたが、他地域からの支援に頼らざるを得ない状況が続いています。これらの事例から、需給ひっ迫が構造的に常態化している実態が明らかです。

電力供給ひっ迫による企業への影響

電力需給のひっ迫は企業活動に深刻な影響を及ぼします。予備率が3%を下回ると計画停電や電力使用制限の可能性が高まり、事業継続に直結するリスクが発生します。

製造業では生産ラインの停止により納期遅延や機会損失が発生し、データセンター事業者にとってはサーバーの停止が顧客企業のシステム障害を引き起こすリスクがあります。オフィスビルでは空調やエレベーターの使用制限により業務効率が低下します。

2022年3月の需給ひっ迫時には、多くの企業が自主的な節電対応を迫られ、生産計画の見直しや営業時間の短縮を余儀なくされました。電力コストの上昇も経営を圧迫しており、電力供給の安定性確保は喫緊の経営課題となっています。

首都圏の電力供給リスクが高まる5つの要因

電力需給のひっ迫を引き起こす要因は、複数の構造的問題が複雑に絡み合っています。ここでは、リスクを高める5つの主要因について解説します。

火力発電所の休廃止と供給力不足

脱炭素政策の推進により火力発電所の休廃止が加速しています。再生可能エネルギーの固定価格買取制度により太陽光発電が急増した結果、火力発電所の稼働率が低下し運転維持費を捻出できず廃止する事業者が相次ぎました。

火力発電は電力需要のピーク時に柔軟に出力調整できる特性があり、電力供給の安定性を支える基盤として不可欠です。しかし経済合理性を追求する電力自由化市場では、稼働率の低い発電所を維持するインセンティブが働きにくく、供給力の削減が進んでいます。この結果、予備率の低下を直接招き、需給ひっ迫リスクが高まっています。

LNG液化天然ガスへの過度な依存

原子力発電停止後、首都圏の電力供給はLNG火力発電への依存度を急速に高めました。現在、東京電力管内の発電量の約7割をLNG火力が担っており、燃料調達の安定性が電力供給の生命線となっています。

LNGは気化しやすく貯蔵に適さないため、需要予測に基づいて最適化した燃料調達を行っていますが、予想を超える需要増や異常気象の長期化により在庫不足に陥るリスクがあります。2021年の寒波時には、LNG在庫の枯渇懸念から電力市場価格が高騰する事態となりました。

地政学的リスクも深刻です。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う制裁措置への報復として、サハリン2事業が事実上接収される問題が発生しました。日本向けLNG供給の約1割を占める拠点であり、供給源の多様化が急務となっています。

原子力発電の再稼働遅延

原子力発電は安定的なベースロード電源として期待されていますが、新規制基準への適合審査と地元自治体の同意取得に時間を要し、多くの原子炉が停止したままです。

原発1基の再稼働は世界市場にLNG約100万トンを供給する効果があるとされ、燃料価格の抑制にも寄与します。しかし東日本大震災の教訓から、安全性確保と地域住民の理解を得るプロセスには慎重な対応が求められており、短期的な需給改善策としては限界があります。再稼働の見通しが立たない中、電力供給の不安定性は継続しています。

再生可能エネルギーの変動性と調整力不足

太陽光発電や風力発電は天候や季節により発電量が大きく変動する特性があります。太陽光発電は日没後に発電できないため、夕方から夜間の需要ピーク時に供給力として期待できません。また曇天や雨天では発電量が大幅に低下します。

再生可能エネルギーの変動性を補うには、火力発電による調整力が欠かせません。しかし前述のとおり火力発電所の休廃止が進んでおり、調整力の確保が困難になっています。再生可能エネルギーの導入拡大と調整力の確保は表裏一体の課題であり、両立が実現しなければ電力供給の安定性は保てません。

電力システム改革による供給責任の空白

2016年の電力小売全面自由化と2020年の発送電分離により、電力システムは大きく変化しました。従来は地域の電力会社が発電から送配電、小売まで一貫して担い供給義務を負っていましたが、制度改革により責任が分散されました。

現在は発電・送配電・小売の分業体制となり、各事業者は自社領域での最適化を追求します。このため、電力供給全体の安定性を俯瞰する主体が不明確となっています。電力市場での競争激化により、長期的な供給力投資よりも短期的な収益性が優先され、需給ひっ迫リスクの慢性化を招いています。

首都圏の電力供給安定化に向けた対策

電力需給のひっ迫に対しては、国や電力事業者による構造的な対策と実践的な取り組み、両面からのアプローチが求められます。

国・電力事業者が進める構造的対策

電力需給の安定化に向けて、政府と電力事業者は制度改革と技術的対策を進めています。

kWh電力量ベースの需給評価

従来の瞬時的な需給バランスだけでなく、燃料在庫量を考慮した電力量評価を導入する取り組みです。定期的なモニタリング体制を構築することで、需給ひっ迫の予兆を早期に把握できるようになりました。

容量市場の創設

稼働率が低くても供給力として維持すべき発電所に対価を支払う仕組みが整備されました。これにより火力発電の休廃止に歯止めをかけ、予備率の確保を経済的に支援しています。

広域電力融通の強化

電力系統の整備マスタープランを策定し、地域間での電力融通をスムーズに行える体制を構築しています。首都圏で需給がひっ迫した際に、中部電力や東北電力から速やかに支援を受けられる仕組みが整いつつあります。

企業が取り組むべきBCP事業継続計画対策

電力供給リスクへの備えは、企業のBCP対策として不可欠です。具体的な対策を3つの観点から解説します。

自家発電設備・蓄電池の導入

停電時も基幹システムや製造ラインの稼働を継続できます。特にデータセンターや医療機関、製造業では、無停電電源装置(UPS)と組み合わせた多重化された電源システムの構築が効果的です。

デマンドレスポンス契約の活用

需給ひっ迫時に電力使用を抑制することで料金削減インセンティブを得られます。電力会社と契約し、ピーク時の使用を計画的に削減することで、経済的メリットと社会貢献を両立できます。

運用計画の見直し

製造ラインの稼働時間を需要の少ない深夜帯にシフトする、オフィスの空調設定温度を適正化するなど、ピーク時間帯の使用を抑える工夫が有効です。

企業のBCP対策について詳しく知りたい方は、「もしもに備えて知っておきたいITシステムのBCP対策とは」をご覧ください。

企業における電力リスク管理の実践ポイント

電力供給リスクへの対策は、個別の設備導入だけでなく組織全体での取り組みが必要です。

経営層への報告体制を整備し、電力需給ひっ迫時の意思決定フローを明確化することで、迅速な対応が可能となります。電力使用状況のモニタリングシステムを導入し、異常な電力消費を早期に検知できる体制を整えることも有効です。

さらに、首都圏への業務機能の一極集中を見直し、地方へのリスク分散を検討することも効果的です。特にデータセンターやバックオフィス機能を電力供給の安定した地域に分散配置することで、首都圏の需給ひっ迫時にも事業継続性を確保できます。

持続可能な電力供給体制の構築に向けて

首都圏の電力供給リスクは、火力発電所の削減、LNG依存、原発再稼働の遅延、再生可能エネルギーの不安定性、電力システム改革の副作用という5つの構造的要因により高まっています。国や電力事業者による制度改革が進む一方、企業は自家発電設備の導入やデマンドレスポンス契約の活用など、独自のBCP対策が不可欠です。

また、首都圏への一極集中を見直し、電力供給の安定した地方へ業務機能を分散することも、リスクマネジメントの観点から有効な選択肢となります。

こうした電力供給リスクへの備えとして、企業のBCP対策には堅牢なIT基盤の確保が欠かせません。STNetでは、自然災害リスクの低い香川県に立地し、JDCC最高水準「ティア4」に準拠した高信頼データセンター「Powerico(パワリコ)」により、お客さまの事業継続を支援しています。

Powericoは、過去100年間震度6以上の地震がゼロの強固な地盤と海抜14.5mの高台に立地し、基幹送電網から2系統受電による冗長性のある電源供給を実現しています。四国電力グループならではの電力インフラの安定性と、24時間365日の専門技術員による監視体制により、首都圏の電力ひっ迫リスクに左右されない安定運用を提供します。さらに再生可能エネルギー由来の電力オプションにより、環境配慮と事業継続性を両立できます。

電力インフラの安定性は企業の事業継続の基盤を支えるため、官民それぞれの立場から持続可能な電力供給体制の構築が求められています。電力供給リスクに備えた持続可能なIT基盤の構築に向けて、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事で紹介しているサービス

Powerico(パワリコ)

自然災害リスクの低い安全な立地と高信頼のファシリティ、多様な運用サービスで、お客さまのサーバーを安全に保管・運用します。

よくあるご質問

Q. 首都圏の電力供給リスクとは

A. 首都圏の電力供給リスクとは、需要に対して供給力が不足し停電や電力制限が発生する可能性を指します。東京電力管内では予備率が3%を下回る事態が頻発しており、大規模停電のリスクが高まっています。

詳しくは「首都圏の電力供給リスクとは?現状と課題」をご覧ください。

Q. 電力需給ひっ迫が起こる原因

A. 火力発電所の休廃止、LNGへの過度な依存、原発再稼働の遅延、再生可能エネルギーの変動性、電力システム改革による供給責任の分散という5つの構造的要因が複合的に作用しています。

詳しくは「首都圏の電力供給リスクが高まる5つの要因」をご覧ください。

Q. 企業が取り組むべき電力供給リスク対策

A. 自家発電設備・蓄電池の導入、デマンドレスポンス契約の活用、運用計画の見直しによるピーク時使用の抑制などが効果的です。また、地方データセンターの活用によるリスク分散も有効な選択肢です。

詳しくは「首都圏の電力供給安定化に向けた対策」をご覧ください。