クラウドファースト時代だからこそ期待されるデータセンターの役割
課題解決のためのノウハウ
「AI基盤はクラウド完結が最適」という従来の考え方が見直され、パブリッククラウド上のワークロードを自社環境(データセンター等)へ戻す「Cloud Repatriation(クラウドからの回帰)」が世界的な潮流となりつつあります。
コスト増加やデータ管理の課題からインフラの再構築を迫られる企業が増えるなか、重要なのはクラウドを捨てることではありません。ワークロードの特性に応じ、クラウドとハウジングを賢く組み合わせる「ハイブリッドな再配置」こそが、コストとリスクを制御するカギを握ります。
本記事では、クラウドからの回帰が注目される背景と、最適なインフラ再配置の考え方を詳しく解説していきます。
パブリッククラウド上のシステムやデータを自社管理環境やデータセンターへ移す「Cloud Repatriation(クラウドからの回帰)」が、世界的な潮流となっています。 Barclaysの調査(2024年)によれば、86%のCIOがパブリッククラウドから一部のワークロード移転を計画しており、その割合は過去最高水準に達しました。IDCの調査(2024年)でも、すでに70%の企業が回帰やハイブリッド運用に踏み切っており、取り組みは「検討」から「実行」へと加速しています。
さらに、パブリッククラウドへ年間200万ドル以上を投じる大規模企業の72%が、すでに1つ以上のワークロードをハウジング等へ引き戻しています(Andreessen Horowitz, 2024年)。 こうした回帰の動きは一時的なトレンドにとどまらず、インフラ運用が成熟期に入った企業による「戦略的な再配置」といえます。
参考:Puppet Blog「The Great Repatriation: Enterprise IT Infrastructure Returns to On-Premises」 2026.7
インフラ運用の現場において、見過ごせない影響を及ぼしているのが、仮想化基盤を巡る大幅なコスト構造の変化です。 BroadcomによるVMwareの買収以降、従来の永続的なライセンス販売が終了し、サブスクリプションモデルへの一本化と製品ラインアップの刷新が進められました。このライセンス体系変更に伴い、利用料金の急速な増加に直面する企業も少なくありません。
さらに、この影響はクラウド事業者が提供するサービスの価格にも波及しており、仮想化技術を活用したクラウド利用料が従来の2〜3倍に引き上げられるケースも見られます。外部ベンダーの意向によって運用コストが不透明化・高騰する懸念が強まるなか、中長期的なコストをいかに制御・予測するかが、企業にとって重要な課題となっているのです。
既存インフラの維持を脅かすライセンス費の高騰と、AI運用に伴うパブリッククラウドの従量課金コスト膨張が同時に進行し、企業のIT予算を圧迫しています。 一見別に思えるこの2つの課題ですが、根本にある原因は「外部ベンダーの規約や価格体系への過度な依存構造」にあります。単一の環境に依存し続ける運用では、ベンダー側の都合によって生じるコストの急変動を自社でコントロールできません。
この「二重苦」を解消するには、インフラの抜本的な再設計が急務といえます。定常的なワークロードや重要なデータをコスト推移の読めるハウジング環境へ部分移行することで、外部依存に伴うリスクを同時に軽減できます。クラウドの俊敏性とハウジングの明確なコスト構造を組み合わせたハイブリッドな再配置こそが、持続可能な基盤運用のカギを握ります。
AIの学習フェーズとは異なり、24時間365日定常的にリクエストを受け続ける「推論(Inference)」処理は、従量課金のパブリッククラウドではコストが拡大しやすい性質を持ちます。
IBMの調査(2024年10月)によると、企業のAIコンピュート費用は2023年から2025年の2年間で平均89%増加する見通しです。一定のアクセスが持続する推論基盤を従量課金で運用し続けると、データセンター(ハウジング)などの固定費型インフラと比較してTCO(総保有コスト)が大幅に高騰する傾向にあります。
常時稼働する推論ワークロードについては、毎月の利用料をコントロールしやすい固定費型インフラへ切り替えることが、コストの平準化と予測可能性を高める合理的な選択といえます。
参考:IBM 「The CEO's Guide to Generative AI: Cost of compute」 2024.10
AI活用を本格的な実務運用へと拡張する際、多くの企業が直面するのが予期せぬクラウドコストの膨張です。前述したIBMの調査(2024年10月)では、経営幹部の70%が生成AIをコスト高騰の主因と捉えており、すべての経営幹部が費用懸念を理由に少なくとも1つのAIプロジェクト中断や延期を経験しています。
特に見落とされやすいのが、社内データを活用するRAG(検索拡張生成)構成に伴うデータ転送費用です。ベクトルデータベースとGPU環境間などで発生するアウトバウンド通信は、利用量に応じて従量課金が積み重なるため、FinOps(クラウド財務管理)における予期せぬコスト圧迫要因となります。データ通信量の予測が難しいクラウド完結型の運用では、予算の制御が極めて困難な状況に陥りがちです。
AIコストが増加する背景やAIコスト最適化については、「生成AIのコストが2年で89%上昇——『全部クラウド』構成を見直すべき理由」もご覧ください。
クラウド継続運用・ハウジング移行の・コスト・リスク・適合ケース比較
| 比較項目 | クラウド継続運用 | ハウジング移行 |
|---|---|---|
| 月額コスト安定性 | 低(変動リスクあり) | 高(固定費化で予測可能) |
| データ主権 | 中(事業者のポリシーに依存) | 高(自社管理で完結) |
| 移行コスト | 低(既存環境を維持) | 中~高(環境構築が必要) |
| 運用負荷 | 低(クラウド事業者が運用) | 中~高(定常的な保守作業及び障害対応は委託可能) |
| 最適な用途 | 短期利用、突発的なバースト | 24時間365日の推論、基幹AI等 |
インフラの再配置を検討する際、自社がどのような状況にあるかを見極めることが重要です。具体的には、以下の3つの条件がひとつの判断基準となります。
これらの条件のうち2つ以上に該当する場合、インフラすべてをパブリッククラウドに依存し続けるのではなく、ハウジング環境への部分移行や併用を検討することが極めて合理的な選択肢となります。そして、この「攻めのハイブリッド戦略」を支える堅牢な基盤となるのが、STNetが提供するデータセンター「Powerico(パワリコ)」です。
STNetは、将来の技術トレンドを見据えたインフラ投資を続けています。データセンターファシリティスタンダードの「ティア4」に準拠した、堅牢性・信頼性を備えたデータセンター「Powerico」では、2013年の開業当初から「1ラックあたり最大定格21kVA」という高密度・高電力供給を提供し、高負荷環境への対応力を示してきました。
さらに、今後のAI・GPU需要の爆発的増加に対応すべく、2026年度より高発熱サーバーに対応する液冷設備の実証実験に着手し、設備導入に向けた投資を迅速に推進しています。(液冷設備の提供条件等については段階的な展開を予定しています)高発熱な次世代GPUサーバーを安定して稼働させられるファシリティは、企業のAI基盤を長期的に支える強力なアドバンテージとなります。
一極集中のリスクを回避し、持続可能なインフラを実現するアプローチとして期待されるのが「地域分散型データセンター」です。STNetでは2026年度より分散配置されたGPUを高速・低遅延ネットワークで束ねる「遠隔GPUクラスター」の実証実験にも取り組んでいます。
こうした高度なネットワーク基盤を生かし、学習フェーズには柔軟なクラウド環境を活用しつつ、日常的・定常的な推論基盤にはコスト効率の優れたPowericoを充てる「ハイブリッド構成」についても検討の余地があります。パブリッククラウドと自社専用環境を組み合わせることで、コストとリスクの最小化を図れます。 (※STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]等のご利用範囲や、学習フェーズにおける具体的な対応可否につきましては、システムの構成・要件に応じた個別確認が必要です)
自社の重要なデータやアルゴリズムをどこで保管・運用するかという「データ主権」の確保は、AI時代の経営戦略において避けて通れないテーマとなっています。外資系ベンダーの規約変更や法的リスクに左右されない国内データセンターの活用は、ガバナンスとデータ主権の維持に不可欠です。
また、広域災害を見据えたBCP(事業継続計画)対策も重要な側面といえます。香川県高松市という災害リスクが少ない立地に拠点を置く「Powerico」を分散拠点として確保することは、南海トラフ地震等のリスクに備えるうえで大きなメリットです。自然災害のリスクを極限まで抑えた環境でデータを保護することが、企業全体のレジリエンス向上へと直結します。
「なんでもクラウド」からの転換は、決して後退ではありません。むしろ、AIワークロードの特性やコスト構造を見極めたうえで、自社にとって最適なインフラポートフォリオを再構築する「戦略的な進化」といえます。
ライセンス費の高騰や、AI推論・RAG構成に伴う従量課金コストの膨張に対し、ハウジングを組み合わせたハイブリッド構成は極めて有効な打開策となります。STNetのデータセンター「Powerico」を活用することで、高いパフォーマンスと優れたコスト安定性を両立する次世代型AI基盤の構築が可能です。インフラのコントロール権を自社に取り戻す取り組みこそが、AI時代における持続可能な競争力を支える強固な礎といえます。
「定常稼働するAI推論ワークロードを抱えている」「VMwareをはじめとするライセンス更新が直近に迫っている」「データ主権やセキュリティ、ガバナンスに懸念がある」、3つのいずれかに該当する場合、ぜひSTNetへご相談いただき、Powericoをご検討ください。
Q1.オンプレミス回帰(クラウドからの回帰)とは何ですか?
A. 一度パブリッククラウドへ移行したシステムやデータを、自社管理のオンプレミス環境に戻す動きのことです。海外では「Cloud Repatriation(クラウド・リパトリエーション)」と呼ばれ、近年はクラウドのコスト高騰やセキュリティ要件の厳格化を背景に、日本国内でも多くの企業が検討・実施を進めています。なお、厳密には異なりますが、データセンター(ハウジング)に自社サーバーハードウェアを設置することを含んで言われることもあります。
Q2.クラウドからオンプレミスに回帰する最大の理由は何ですか?
A. 最も多い理由は「コストの最適化」です。クラウドは初期費用が抑えられる反面、データ量や通信量が増えると従量課金によって想定外のコストが継続的に発生します。特に、24時間365日稼働する定常的なシステムや、大量のデータを扱うAI推論基盤などにおいては、固定費で運用できるオンプレミスの方が中長期的なTCO(総保有コスト)を大幅に抑えられるケースが多くなっています。
Q3.オンプレミス回帰に失敗するリスクや注意点はありますか?
A. 「すべてをオンプレミスに戻そうとする」と失敗するリスクが高まります。オンプレミスはコスト予測が容易でセキュリティを統制しやすい反面、クラウドが得意とする即応的なリソース拡張(スケーラビリティ)は実現が困難です。そのため、変動の激しいシステムはクラウドに残し、定常稼働するシステムや機密データを扱う基盤だけをオンプレミスに移す「ハイブリッド構成」を前提に検討することが多くあります。
Q4.オンプレミス回帰にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. システムの規模や移行するデータ量によって異なりますが、一般的には要件定義からインフラ構築、データ移行、テストを含めて3ヶ月〜半年程度が目安となります。
Q5.オンプレミスとハウジング/コロケーションの違いは何ですか?
A. オンプレミスとは、自社のオフィス内などの拠点にサーバー機器を設置し、自社で運用する形態を指します。一方、専門業者が運営する堅牢なデータセンターに自社サーバーを預けて設置する形態(ハウジング/コロケーション)は、厳密にはオンプレミスとは区別される形態です。近年は、災害対策(BCP)や冷却・電力効率の観点から、自社オフィスではなくハウジングを選択する企業が主流となっています。