生成AIのコストが2年で89%上昇——「全部クラウド」構成を見直すべき理由

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課題解決のためのノウハウ

「AIシステムの基盤はクラウドで完結させるのが当たり前」という、これまでの常識が揺らいでいます。生成AIの運用を進めるなかで、想定を超える月額費用に違和感を抱く担当者の方は少なくありません。そのコスト増大の主因は、クラウドサービスプロバイダー(CSP)へ過度に依存したインフラ構造そのものにあります。

本記事では、この課題の本質をひも解き、ネットワークとシステム設計の「見直し」という実践的な解決策を提示します。

本番運用で顕在化する「AIコスト増大」の背景

デジタル庁GCASガイド「継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド」等でも見られるように、AIシステムの本格運用に伴う想定外のコスト急増を受け、IT・実務・財務部門が連携して経費の継続的な管理と最適化を目指す「FinOps」への取り組みが重視されています。

このコスト増加は、利用量に比例する従量課金の仕組みや、検証から本番展開へ移行する際のデータ量の爆発的な増加が主な要因です。

参考:デジタル庁 継続的運用経費最適化(FinOps)ガイド 2026年7月現在

なぜAI活用が進むとコストが急増するのか

AI活用におけるコスト急増を招く最大の要因は、生成AIの多くが採用している「従量課金」という仕組みにあります。従来の一般的な業務システムであれば、ユーザー数やデータ量が増えても、サーバーの基本スペックを変更しない限り月額費用は一定の範囲内に収まりました。

しかし、従量課金制の生成AIシステムでは、利用ユーザーの拡大や日々の業務プロセスへの組み込みが進むにつれて、処理量に比例したコストが予測を超えて右肩上がりに積み上がっていくのが実態です。米IBMの調査レポート「The CEO's Guide to Generative AI: Cost of compute」によると、AIの運用コストは2023年から2025年にかけて89%も上昇しており、経営層の70%はコスト増加の大きな要因だと認識しています。

また、実際にAIの運用を開始して初めてその負担の重さに驚く企業は少なくありません。

参考: IBM Use gen AI economics to lap the competition 2026年7月現在

PoC(検証)から「本番環境」へ移行する際のコストの乖離

想定外のコスト増加が最も顕著に現れるのが、PoC(概念実証・検証)の段階から「本番環境」へと移行するときです。PoCの期間は、対象となる利用者が一部の先進的なメンバーのみに限定されており、扱う社内データも絞り込まれているケースがほとんどです。この段階では従量課金によるコストが問題になることは少ないでしょう。そのため、技術的な実現可能性や業務効率化の「成果」ばかりに目が向き、インフラにかかる費用自体のリスクは見落とされがちです。

しかし、全社にAIが展開され、全従業員が日常業務のなかで何度もAIを呼び出すようになると、状況は一変します。処理される文書の量や検索の頻度、AIの思考にかかる計算量が爆発的に増加し、検証時には見えなかった費用が突如として顕在化するのです。

「クラウドの従量課金に委ねる」という設計のまま本番運用へと進むことは、将来的なコストコントロールの主導権をCSP側へ完全に握られてしまうリスクをはらんでいます。持続可能なAI運用を実現するためには、PoCの段階から本番環境を見据え、インフラとネットワークの設計そのものを根本から見直す視点が必要不可欠です。

AI運用コストを形作る「3大要素」と見落とされがちな通信費

RAG(検索拡張生成)などの生成AIシステムを最適に運用するには、そのコスト構造を正しく把握する必要があります。多くの企業ではAIモデルのAPI利用料ばかりに目が向きがちですが、実際には目に見えにくい複数の要素が複雑に絡み合っています。

「計算・通信・保存」の基本的なコスト構造

AIシステムのインフラコストは、大きく「計算」「通信」「保存」という3つの軸に分解して捉えると分かりやすいでしょう。

計算(推論・Embedding)

ユーザーの質問の意味を解釈してベクトルデータに変換する処理(Embedding)や、AIが回答を組み立てて出力する処理(推論)にかかるコストです。

通信(データ転送)

ユーザーとシステムの間、あるいは検索システムとクラウド上のAIモデルの間でデータをやり取りする際にかかるコストです。

保存(ストレージ)

RAGの参照元となる社内文書データや、AIが検索しやすいように加工されたベクトルデータを蓄積しておくためのコストです。

これら3つの要素が、ユーザーの検索やAIの回答生成という一連の流れのなかでどのように連動しているのか、以下の図で整理します。

RAG構成で発生する「データ転送量課金(Egress)」

3大要素のなかでも、運用を開始してから最も見落としがちな盲点となるのが「通信」、つまりクラウドからのデータ転送量課金(Egressコスト)です。RAGを導入したシステムでは、ユーザーが質問を入力すると、まずシステム制御基盤が社内のデータベースから関連する文書を検索・抽出します。

この抽出された文書を、インターネットや専用線を通じてCSP上のLLM(大規模言語モデル)へと送信するアプローチが一般的です。このとき、CSP側の環境からデータが外に出る、あるいは異なるネットワーク領域をまたいでデータが転送されるタイミングで、転送量に応じた従量課金が発生する場合があります。これがEgressコストの構造です。

ここで重要となるのが、検索結果として一度に取得する文書量(システム設計における「top_k」の値)の設計です。AIの回答精度を高めようとするあまり、検索の網を広げて大量の文書ファイルをヒットさせる設計にしていると、1回の質問ごとに膨大なデータ通信が発生します。社内での利用頻度が高まるにつれて、このデータ転送量が膨らみ、月末に想定外の高額な通信費が請求される原因となります。

データ量に連動して上昇する「推論・Embeddingコスト」

見落としがちな通信費の増加は、そのまま「計算」にかかるコストの肥大化へと直結します。なぜなら、AIモデルの処理費用は、入力および出力される「トークン(文字数・単語の区切り単位)」の量に応じて課金される仕組みだからです。

RAG構成において、検索精度の維持を優先して大量の参考文書をデータベースから引き出すと、それらのテキストがすべて「プロンプト(AIへの指示文)」に結合されてクラウド上のLLMへと送られます。つまり、システム側が良かれと思ってたくさんの情報を集めれば集めるほど、AIに読み込ませる入力トークン数が跳ね上がっていく構造になっています。

これにより、本来のユーザーの質問文そのものは短かったとしても、裏側でRAGが機能することによって計算コストが何倍にも増幅されてしまいます。データ転送量の増加(通信費の悪化)と、推論・Embedding費用の増加(計算費の悪化)は、RAGの設計次第で顕在化する密接な関係にあるといえます。

肥大化する社内データと保存(ストレージ)コスト

最後に考慮すべきが「保存」、すなわち蓄積され続けるデータのストレージコストです。RAGの回答精度を中長期的に向上・維持させていくためには、最新の社内情報を常にシステムに反映させなければなりません。

実務で扱われるデータは、シンプルなテキストファイルだけにとどまりません。図表が含まれるPDF、マニュアルの画像、スキャンされた紙書類など、多様な形式のデータが日々追加されていきます。さらに、これらをRAGで高速に検索するためには、すべての文章を機械が扱える「ベクトルデータ」へと変換し、専用のベクトルデータベース(ベクトルDB)に保管する必要があります。

このベクトル化されたデータは、元のテキストデータに比べてデータ容量が格段に大きくなる特性を持っています。さらに、CSPが提供する高性能なストレージや、フルマネージドの専用ベクトルDBは、維持費自体が高価に設定されているケースが少なくありません。

運用の見直しを行わずに、使われなくなった古いバージョンの文書や、重複した不要データまでをもクラウド上の高級なストレージに保管し続けると、何もしなくても毎月固定で高額な維持費が引かれ続けるというリスクを抱え込むことになります。

インフラとネットワークからアプローチする「AIコスト最適化」の設計手法

RAGを組み込んだ生成AIシステムのコストが膨らむ背景には、クラウドの従量課金システムと密結合したインフラ構造があります。この課題を根本から解決するためには、AIモデルそのものの見直しだけでなく、インフラの配置(トポロジー)とネットワーク経路の設計を最適化するアプローチが極めて有効です。

コストと性能のバランスを取る「ハイブリッド構成」の選択

すべてをCSP側に依存するのではなく、「データの保持や検索といった前処理はローカル(データセンター)で行い、膨大な計算能力が必要な推論処理のみを最適にコントロールする」というハイブリッド構成の選択が、現実的なコスト最適化プランとなります。

例えば、社内文書をベクトルデータに変換する「Embedding」の処理や、日々のデータ更新のなかで発生する「差分更新」「バッチ処理」を自社コントロール下のオンプレミス環境やハウジング環境で実行します。これにより、頻繁に発生するデータの出し入れにおいて、高額なクラウド外通信費(Egressコスト)を発生させない仕組みを構築できます。

常時稼働させる必要のあるデータ検索基盤を定額のハウジング環境へ逃がすことで、クラウドの変動費を固定費化し、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)を劇的に引き下げることが可能です。具体的なインフラごとのコスト構造の違いは、以下の比較表のようになります。

「クラウドGPUとハウジングGPUのコスト構造」

項目 クラウドGPU ハウジングGPU
初期費用
  • 極めて低い
  • ハードウェアの購入が不要
  • 初期投資を抑えて即座に開始可能
  • 高い
  • GPUサーバーおよび周辺機器の購入費用
  • 初期のセットアップや設置工事費用
月額費用
(サーバー利用料金)
  • 変動費(従量課金)
  • リソース使用量に応じた課金
  • 固定費(月額定額)
  • データセンターのラック利用料
  • 使用電力や空調、保守メンテナンス費用
月額費用
(データ転送料金)
  • 高い
  • クラウド外へデータを取り出す際の転送量課金
  • RAG等で扱うデータ量が膨らむほどコストが急増
  • 低い
  • 専用線や閉域網の活用で通信費をコントロール可能
TCO
  • 短期的・一時的な利用に最適
  • 検証や短期のプロジェクトでは高効率
  • 常時稼働の本番運用では割高になるリスク
  • 長期的・安定的な稼働に最適
  • 予測可能な固定費での運用
  • 高稼働な推論ワークロードにおけるコストメリット

データ転送量と計算量をコントロールするシステム設計

ハイブリッドなインフラ配置と合わせる形で、システムに流れるデータそのものを制御する設計アプローチも必要です。RAGにおいてAIに引き渡すドキュメントの切り出しサイズ(チャンクサイズ)を最適化し、不要なメタデータや重複情報をあらかじめ絞り込んでから転送するアプローチが挙げられます。

検索結果として取得する文書ファイルの絞り込み条件を業務ニーズに合わせて厳密にチューニングすることにより、無駄なデータ転送量と、それに連動して膨らむAIモデルへの入力トークン数を物理的に抑制できます。

CSP依存から脱却するネットワークの見直し

CSPへの依存度を下げるうえで、最も影響が大きいのがネットワーク経路の見直しです。機密性の高い社内データを扱う生成AI運用においては、セキュリティ担保のために閉域網(VPNや専用線)を活用することが一般的ですが、このネットワークトポロジーを最適化することで、通信費の課金構造を劇的に変えられます。

インターネット経由のデータ転送量課金に比べて、帯域保証型や定額制の閉域網を自社インフラとデータセンター、クラウドの間に最適に配置すれば、どれだけRAGで大量の文書を往復させても通信コストの変動に怯える必要はなくなります。

学習や高度な大規模推論のときだけをCSP側で行い、日常的な検索や中間処理はセキュアで安価な閉域網を介した自社環境側で行うという「処理のトポロジー変革」こそが、AI時代のインフラ自立へ向けた確かな一歩となります。

STNet「Powerico(パワリコ)」によるAIインフラの最適化

生成AIやRAGの運用コストを最適化するためには、CSPへの過度な依存から脱却し、ネットワークとインフラの主導権を自社側に取り戻すシステム設計が鍵となります。

この「ハイブリッド構成」を高い安全性を備えた環境で具現化し、企業のFinOpsを力強く後押しするソリューションが、STNetの提供するデータセンター「Powerico(パワリコ)」です。

閉域網とセキュアな通信環境によるデータ転送コストの抑制

RAGの運用において大きなボトルネックとなっていたのが、社内ドキュメントを検索・抽出してクラウドへ転送するたびに膨らむデータ転送量課金(Egressコスト)でした。Powericoでは、高速かつ極めて安全な閉域網(専用線やVPN)を柔軟に組み合わせたインフラ設計が可能です。インターネット経由のデータ転送量に応じた従量課金とは異なり、帯域保証型や定額制のネットワーク経路を自社システムとクラウドの間に最適に配置できます。

これにより、AIが日々どれだけ大量の社内文書を往復させてベクトル検索を行っても、通信コストの変動に悩まされる必要はなくなります。通信経路のトポロジーを最適化し、データの出し入れにかかる費用を実質的に固定費化できる点は、ネットワーク事業者としての知見を活かした当社ならではの大きな強みです。

クローズドGPU基盤の活用による外部API依存の低減化

計算コスト(推論・Embedding費用)の増大へのアプローチとしても、Powericoのハウジングサービスは明確な答えを持っています。常時稼働、あるいは頻繁に呼び出されるRAGのベクトル検索基盤や中間処理用のAIモデルを、Powerico内の自社コントロール下に置いたGPUサーバー(ハウジング環境)で運用する手法です。

これにより、利用ユーザー数や処理トークン数の増加に伴って右肩上がりに積み上がっていたクラウドの変動費を、データセンターのラック利用料や電力費といった予測可能な固定費化しやすいコスト構造へとシフトさせることができます。

機密性の高い社内データを扱うサーバーを強固なセキュリティに守られた国内のデータセンター内で自社管理しつつ、インフラコストの主導権を自社側に引き戻すことで、長期的・安定的な運用を旨とする本番運用のワークロードにおいて劇的なコストメリットを創出します。

AI基盤のコスト最適化でお悩みの方は、ぜひPowericoのご利用をご検討ください。

この記事で紹介しているサービス

Powerico(パワリコ)

自然災害リスクの低い安全な立地と高信頼のファシリティ、多様な運用サービスで、お客さまのサーバーを安全に保管・運用します。