マルチリージョン対応で実現！DR対策を含めた企業IT基盤強化のポイント

マルチリージョン対応は、企業のIT基盤強化と事業継続性向上に不可欠な戦略として注目を集めています。本記事では、マルチリージョン対応の基本概念から、災害復旧（Disaster Recovery：DR）戦略への貢献、実現に向けたIT基盤の構築まで解説します。デジタル時代における企業のIT戦略の要となるマルチリージョン対応について、実践的な知識と導入のポイントをお伝えしますので、企業のIT基盤強化にご関心をお持ちの担当者さまはぜひご一読ください。

マルチリージョン対応とは

マルチリージョン対応は、ビジネスの安定性と成長を支えるIT戦略の一つであり、効果的なDR計画の基盤となります。

マルチリージョンの定義と具体例

マルチリージョンとは、複数の地理的に分散したデータセンターやクラウドリージョンを活用してシステムを構築・運用する方法です。例えば、東京と大阪のデータセンターの両方にシステムを配置し、社内業務システムや顧客向けサービスを運用する形態が挙げられます。これにより、一方のリージョンで問題が発生しても、他方でシステム運用を継続できる可能性が高まります。具体的には、東日本で大規模な自然災害が発生した場合でも、西日本のデータセンターでビジネスを継続できるため、ビジネスの中断リスクを大幅に軽減し、効果的なDRが実現できます。

マルチリージョン対応の注目度上昇とその背景

近年、ビジネスのグローバル化やデジタルトランスフォーメーション（DX）の進展に伴い、マルチリージョン対応への関心が高まっています。特に2011年の東日本大震災を機に、日本企業の間でDR戦略としての必要性が認識されるようになりました。

デジタル技術の発展により、企業活動の多くをITシステムに依存するようになった今日、システム障害がビジネスの中断に直結するリスクが増大しています。マルチリージョン対応は、こうしたリスクを軽減し、事業継続性を高める有効なDR戦略として注目を集めています。さらに、クラウドサービスの普及により、かつては大企業しか実現が難しかったマルチリージョン構成が中小企業にも導入しやすくなったことも、DR対策としての注目度上昇の一因となっています。

マルチリージョン対応のメリットとDRへの貢献

マルチリージョン対応は、企業のIT基盤を強化し、効果的なDR戦略の実現に貢献します。

安定性と障害対策の強化

複数の地域にシステムを分散して配置することで、一箇所での障害がシステム全体に影響を与えるリスクを減らし、業務システムやサービス基盤全体の安定性を高めることができます。例えば、自然災害や大規模停電で一つの地域のシステムが影響を受けても、他の地域で社内業務システムや顧客向けサービスを継続して運用できる可能性が高まります。

災害復旧能力の向上

地理的に離れたリージョン間でのデータ複製により、大規模災害時でもデータ損失を防ぎ、迅速な復旧が可能になります。また、定期的なDRテストも容易に実施できるため、常に最新の状況に対応したDR計画を維持できます。

パフォーマンス向上とシステム応答性の改善

地理的に分散したシステム構成により、社内システムの利用者や顧客にもっとも近い場所からシステムやサービスを提供できるようになります。これにより、データのやりとりにかかる時間を短縮し、アプリケーションの反応速度を向上させ、利用者の満足度を高めることができます。

ビジネスの拡張性と柔軟性の確保

マルチリージョン対応により、事業の成長に合わせて柔軟にシステムを拡張できます。新しい事業所の開設や、急激な社内外のシステム利用者増加による負荷の増大にも、既存のシステムを活用しながら迅速に対応することが可能になります。

DR計画の信頼性向上

マルチリージョン構成により、より現実的で効果的なDR計画の策定が可能となります。具体的なDRテストとしては、プライマリリージョンからセカンダリリージョンへの切替試験を実施し、切替時間の計測やデータ整合性の確認、アプリケーションの動作検証などを行います。実際の運用環境に近い形でのDRテストにより、RTO（Recovery Time Objective: 目標復旧時間）やRPO（Recovery Point Objective: 目標復旧ポイント）の達成度、運用手順の実効性を検証できるため、DR計画の信頼性が大幅に向上します。また、リアルタイムのデータ同期により、災害発生時のデータ損失を最小限に抑えることができます。この結果、企業は不測の事態に対してより強固な準備を整えることができ、ビジネスの継続性を確実に高めることができます。

DRについて詳しくは、「DR対策とは？BCPに欠かせないサーバーやシステム復旧を迅速に行うための方法を解説」をご覧ください。

マルチリージョン対応の課題

マルチリージョン対応には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。

複雑な管理と運用

複数のリージョンにまたがるシステムの管理・運用は複雑です。各リージョンのリソース管理、設定の同期、監視体制の整備など、考慮すべき点が増えます。さらに、マルチリージョンでのDR計画の策定と維持も複雑になり、定期的な見直しと更新が必要となります。この課題に対しては、自動化ツールや一元管理システムを活用することで、マルチリージョンの一貫した管理を実現できる可能性があります。

コスト増加のリスク

マルチリージョン構成では、ITシステム基盤のコストが増加します。複数のリージョンでリソースを確保する必要があり、リージョン間のデータ転送や同期にもコストがかかります。コストの最適化について慎重に評価し、ビジネス上のメリットがコスト増を上回るかを見極める必要があります。ただし、効果的なDR戦略として考慮すると、長期的にはコスト増加に十分価値を感じられる可能性があります。

データの整合性維持の難しさ

複数のリージョンにデータを分散させる場合、整合性の維持が課題となります。リージョン間のデータ同期にはタイムラグが発生し、リアルタイム性が求められるアプリケーションでは問題となる可能性があります。さらに、DRの実行時に、最新のデータ状態を確実に復元することが課題となる場合があります。この課題に対しては、適切なデータ同期メカニズムの選択や、アプリケーション設計の見直しが必要になる場合があります。

データの整合性については、お役立ち資料「クラウド移行中における データ整合性と一貫性の維持のポイント」をダウンロードしてぜひご覧ください。

マルチリージョン対応の実現に向けたIT基盤の分析と構築

マルチリージョン対応を成功させ、効果的なDR戦略を実現するためには、綿密な準備と適切なIT基盤の構築が欠かせません。

現状のIT環境の評価とビジネスニーズの明確化

現状のIT環境をまずは詳細に評価します。既存のシステムの構成、パフォーマンス、セキュリティ状況を精査し、DR観点からの改善点を明らかにします。同時に、ビジネスの継続性要件やDR観点での要求事項を明確化します。復旧時間目標（Recovery Time Objective：RTO）や復旧ポイント目標（Recovery Point Objective：RPO）など、DR戦略に直結する要件を特定します。

DR戦略を考慮した段階的な実装計画の立案

マルチリージョン対応への移行は、DR戦略を中心に据えて段階的に行うことが賢明です。移行プロセスとしては、まず重要度の低いシステムでマルチリージョン構成を構築・検証し、その経験を活かしながら、徐々に重要度の高いシステムへとDR対策を拡大していくアプローチが効果的です。なお、実際の災害時における復旧順序は、事前に定めたBCP（事業継続計画）に基づき、システムの重要度に応じて優先順位を決定します。各段階でDR観点からのリスクと効果を確認し、必要に応じて計画を調整しながら進めることで、リスクを最小限に抑えつつビジネスの継続性を確保し、確実に移行ができます。

DR戦略に基づくマルチリージョン環境の構築

効果的なDR戦略を実現するためには、複数の地理的に分散したデータセンターやクラウドリージョンを活用したマルチリージョン環境の構築が有効です。この環境は、以下のようなさまざまな選択肢を組み合わせて実現できます。

• 自社内の複数拠点（本社、支社、営業所など）
• 国内のデータセンター事業者が提供する地理的に分散したサービス
• クラウドサービスプロバイダーが提供する複数のリージョン
• 上記の組み合わせによるハイブリッド環境

選択にあたっては、企業の規模、業種、セキュリティ要件、コスト、既存システムとの整合性など、さまざまな要因を考慮する必要があります。例えば、重要なシステムは自社または国内の信頼できるデータセンターに配置し、その他のシステムやバックアップにクラウドサービスを利用するといった構成も考えられます。

このアプローチにより、企業固有のDRの要件を満たしつつ、柔軟性と拡張性を兼ね備えたマルチリージョン環境を実現できます。ただし、選択肢の詳細や具体的な構成については、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討しましょう。

セキュリティとコンプライアンスへの対応

マルチリージョン環境では、DR戦略の一環としてセキュリティとコンプライアンスへの対応が一層重視されます。データが複数のリージョンに分散されるため、各拠点でのセキュリティ対策を徹底する必要があります。これにより、災害時でもデータの保護と迅速な復旧を確実にします。

具体的には以下の点に注意が必要です。

• 各拠点での一貫したセキュリティ基準の適用
• データの暗号化やアクセス制御の強化
• リアルタイムの監視とインシデント対応体制の構築
• 定期的なセキュリティ監査、セカンダリリージョンへの切替や復旧手順の検証を含むDRテストの実施

また、複数の地域にまたがる環境では、データの越境移転に関する法規制への対応にも考慮が必要です。地域によって異なるデータの保護に関する規制に準拠しつつ、効果的なDR戦略を実現する必要があります。

これらの課題に対処するためには、以下の取り組みが不可欠です。

• DR計画と整合性のとれた包括的なセキュリティポリシーの策定
• 各地域の法規制に精通した専門家のサポート
• セキュリティ対策とDR戦略の定期的な見直しと更新

このアプローチにより、セキュリティとコンプライアンスを確保しつつ、効果的なDR戦略を実現できます。

マルチリージョン対応と企業の成長戦略

マルチリージョン対応は、地理的に分散した複数のデータセンターやクラウドのリージョンを活用してシステムを構築・運用する戦略です。これにより、システムの安定稼働の確保、パフォーマンスの向上、ビジネスの拡張性確保など多くのメリットをもたらします。特に、効果的なDR戦略の実現にも大きく貢献し、企業の事業継続性を強化します。一方で、管理の複雑化やコスト増加、データの整合性維持、セキュリティとコンプライアンスへの対応といった課題もあります。これらを十分に理解し、適切な準備と計画のもとで進めることが成功への鍵となります。

STNetは、マルチリージョン対応とDR戦略の実現を検討する企業に対して、包括的なソリューションを提供しています。STクラウド サーバーサービス[FLEXタイプ]は、最新鋭のデータセンター「Powerico（パワリコ）」にてIaaSサービスを提供しているため、お客さまのサーバー拠点と組み合わせることで、DR戦略に不可欠な複数拠点でのシステムの冗長化を効率的に実現します。また、その「Powerico」は、お客さまのお持ち込み機器に対応した安全で信頼性の高いハウジング/コロケーション環境を提供し、クラウドサービスと組み合わせることで、ハイブリッド環境構築をサポートします。専門的な運用保守サービス、厳格なセキュリティ基準とコンプライアンス対応により、企業のIT基盤を強化します。

さらに、STNetはマルチクラウド利用にも対応しており、ST-WANダイレクトコネクト（クラウド接続）を通じて、AWSやAzureなど複数のクラウドサービスと、ハウジングサービスおよびオンプレミス環境を安全かつ効率的に接続できます。この高速・安全な閉域網により、シームレスなデータ連携とDR対策を実現し、お客さまの要件に最適化された包括的なマルチリージョン環境を構築できます。

将来の拡張性を見据えたIT基盤構築、企業の皆さまの持続的な成長を支援しますので、ご興味をお持ちの担当者さまはぜひお気軽にご相談ください。